神殺しのクロノスタシス2
「♪♪♪~」

「…」

まず、鼻唄をやめろ。

一緒に歩いてて、恥ずかしいことこの上ない。

校舎の廊下を半ばスキップしながら歩くのもやめろ。

気持ち悪いことこの上ない。

こんなときに生徒とすれ違ったらどうするんだよ…と思っていたら。

案の定。

「…あっ…」

丁度廊下の曲がり角で、二人組の女子生徒と出くわした。

しかもその女子生徒二人組、名札を見たところ、まだ入学したての新入生だ。

仲良くおしゃべりしていた二人組が、俺とシルナを見て、身体を硬直させた。

多分俺にびびったんじゃなく、シルナにびびっているのだ。

だってシルナは、「あの」イーニシュフェルト魔導学院の学院長。

授業を担当しているのは、あくまでシルナが作り出した分身であって、シルナ自身ではない。

だからこの新入生達にとっては、これが初めて、入学式以外で学院長の姿を見た瞬間なのである。

二人はもごもごして、何を言ったら良いか分からないみたいな顔になった。

それもそうだろう。

天下のイーニシュフェルト魔導学院に入学したとはいえ、彼女達は、まだ13歳そこそこの少女。

ルーデュニア聖王国では、「伝説の魔導師」とまで呼ばれているシルナ・エインリーを前にして、何を言ったら良いのかなんて、分かるはずがない。

シルナはシルナで、二人の少女をじっ…と見つめた。

「こ…こんにちは、エインリー学院長先生…」

二人のうち一人が、震える声で挨拶した。

その勇気はなかなかのものだ。

しかし、シルナは答えず、二人をじっと見つめる。

少女達の目に、恐怖と怯えが広がった。

もしや、あの学院長を怒らせてしまったのか。

イーニシュフェルトの生徒とはいえ、自分達のような小娘が、学院長の前に跪きもせず、軽々しく口を利いてしまったことに、怒りを買ったのか。

二人共、泣きそうな顔でシルナを見上げた。

可哀想に。

だが、少女達よ。

心配することはない。

こいつは確かに、伝説の魔導師だとか何とか言われてるが。

ただの、シルナ・エインリーである。

「…思い出した!」

シルナは、いきなりそう叫んだ。

二人の少女は、びくっ、と身体を震わせた。
< 16 / 742 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop