神殺しのクロノスタシス2
勝負というものは。

呼んで字のごとく、勝ちがあれば、負けもある。

そのどちらかである。

だから、勝利に喜ぶ者もいれば。

敗北に涙を流す者もいる。

それが、勝負ってもんだ。

…で?

この学院長は、さっきから何を言ってるんだろう。

「負けた子達の泣く姿が、可哀想で可哀想で…!今でも思い出すんだよ!」

半泣きになるなよ気持ち悪い。

そりゃ負けた子は可哀想だけどさ。

それが勝負なんだから、仕方ないだろ。

「私は皆の、喜ぶ顔が見たい!悔しがって泣いてる姿は見たくない!」

「…あ、そう」

だから何?

それ、俺に何か関係ある?

「そこでだよ。私は考えたんだ」

「何を?」

「今年から、チーム制を廃止しよう」

「…は?」

「皆で走って、せーのでゴールして、障害物競争は石ころ三つくらいにして、これもせーのでゴールして、リレーは全校生徒で…」

俺はこいつを馬鹿だと思ったことは、幾度もあるけれど。

今日以上に馬鹿だと思ったことは、一度もない。

「ねっ、羽久。それが良いよね?今年はそうしようよ」

「…」

「羽久?」

「…シルナ」

「何?」

「お前糞馬鹿野郎だな」

「何その罵倒!?酷い!そんな悪い言葉を使うような子に育てた覚えはありません!」

悪かったな。

俺も、お前にそんな悪い言葉を使うような子に育てられた覚えはない。

そもそも育てられた覚えもない。

育てられた「前の」俺だろ。

故に、俺はシルナに言いたいことを言う。容赦なくな。

「私の何がそんなにいけないの!?そんな変なこと言った!?平和主義だよ!」

「平和じゃねぇ。屁理屈とお前の自己満足だ!馬鹿か!」

「えぇぇ!」

えぇぇじゃねぇよ。何だ、その意外そうな顔は。

何故、自分のそのふざけた意見が通ると思った。

「勝負ってのはなぁ!勝ち負けがあるから勝負なんだよ!勝って喜ぶ奴もいれば、負けて泣く奴もいる。それが勝負の世界なんだよ!運動会ってのはそういうもんだろうが!」

「で、でも!でも負けた子達が可哀想…」

「それも含めて青春だ!可哀想かもしれないけど、若いうちから敗北を知っておくことも大事なんだよ!」

俺は今、良いことを言ったぞ。

勝利しか知らない人間は、将来敗北を知ったとき、どう立ち直れば良いのか分からない。

運動会ごときで、と笑われるかもしれないが。

全員勝利、ってもうそれ勝負じゃねぇし。

ただのお遊戯会じゃないか。

青春以前の問題だ。

「却下!今まで通り、縦割りで…」

「それだけど!それだけど!それも変えたいんだ!」

「あぁ!?お前の、そのお花畑ポンコツ脳みそで何のアイディアが浮かぶんだよ」

「ポンコツ!?」

お花畑は否定しないんだな。

ちなみに、イーニシュフェルト魔導学院の運動会のチーム分けは。

各学年クラス内で、赤、青、黄色、緑、紫の5色のくじを作り、一人ずつそれを引く。

まぁ要するに縦割りのチーム分けだな。

「今までのやり方で良いだろ。何か問題でもあるのか」

「だってこれまでのやり方だと、クラスメイトが敵同士、になっちゃうでしょ?」

あ?

…そりゃ、まぁ…そうだな。

仲良しの友達でも、くじの結果次第では、私は赤、あの子は緑、とか…別々になるわな。

片方が優勝して、片方が最下位だったら、しばらく気まずくなる奴な。

「あれは良くないと思うんだよ!やっぱり運動会なんだから、クラスごとの連帯感をね!高めた方が良いと思うんだ!」

「連帯感って…。じゃあクラスごとに縦割りするか?」

全学年通して。

一組は赤、二組は青…みたいな。

「でもうちの学年、三組までしかないだろ。三巴の戦いにするのか?」

3色しか作れないぞ。今まで5色だったのに。

三巴だと、なんか余計な疑心暗鬼が生まれそうじゃね?

お互い最下位にはなりたくないから、赤と青が手を組んで、黄色を最下位に蹴落とそう、みたいな…。

しかし、シルナは頭の中がお花畑なので。

「三巴かぁ。今までにない感じで、良いね!やってみようよ!」

「…ふーん…」

まぁ、シルナが良いなら良いけどさ。

君の頭の中が、相変わらずお花畑だってことが分かったよ。

はいはい、今年は三色にするのね。分かりましたよ。
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