神殺しのクロノスタシス2
運動会の練習が始まり出した頃。

シルナは、またしても。

またしても。

気持ち悪いことをやっていた。

「ふんふふんふーん♪」

俺は毎年のことだから、もう慣れた。

しかし、イレースは。

「…」

無言で、シルナを見下ろしていた。

そのときのイレースの目の冷たさを、俺は一生忘れないだろう。

「…羽久さん」

「何?」

「これは、何をやってるんですか」

あぁ。

聞かれると思ってたよ。

「はいっ、ロジーちゃんの分完成!次はユイト君の…」

シルナは、うちわにまみれていた。

うちわって知ってる?

夏暑いときに、パタパタ仰ぐ奴。

シルナは、真っ白のうちわを大量に発注して、それに自分でデコレーションしていた。

キラキラのデコレーションテープを貼り付け、レースやフリル、リボン、紙テープで作った花なんかを、ペタペタくっつけて。

何を作っているか、もうお分かりのことだろう。

応援グッズだ。

ライブとか、球場で観戦している人が、たまに持ってるだろう?

自分がファンの有名人の名前とか書いて、選手にアピールすんの。

あれを作ってる。

「よしっ、次は…ナジュ君の!」

しかも、生徒一人一人の分。

信じられるか?

新入生が入ってくる度に、毎年作ってるんだぜ、これ。

だから、全校生徒分ある。

シルナは当日、観客席で、競技をしている生徒に向かって、このうちわを振るのだ。

一人ずつ。名前叫んで応援しながら。

小学一年生の、初めての運動会の応援でも、ここまでやらんよな。

お前、保護者か?

保護者でもやんねーよ。うちわ作りなんて。

「…」

イレースは、冷えきった目でシルナを見下ろしていた。

その気持ちはよく分かる。

でもな、これ、止めても無駄なんだよ。

「あ~楽しいなぁ~。楽しみだなぁ~」

見ろ。シルナの、このるんるん顔。

この時点で誰よりも、運動会をエンジョイしてやがる。

「…とりあえず」

と、イレースは言った。

「この下らない応援グッズの経費は、学院長の給料から天引きしておきます」

「あぁ。それで良いと思う」

是非とも、そうしてくれ。
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