神殺しのクロノスタシス2
「報告は?」

「うーん…」

報告…報告なぁ。

一通り考えを巡らせ、そして答えが出た。

「…特にないです」

「…」

…何だ、この沈黙。

店員に、この二人、またファミレスで別れ話してる…って思われてしまうじゃないか。

そして、僕のスポンサーが言うには。

「…何の為に、危険を冒してお前をイーニシュフェルト魔導学院に潜入させたと思ってる」

「…」

…と、言われましてもねぇ。

僕は、アイスティーをストローでかき混ぜた。

「僕はあくまで、一人の生徒でしかない訳で…」

「…」

「つまり、そうそう特ダネを持ってこられる訳じゃないんですよ」

見破られたから危険だから、妄りにシルナ・エインリー本人に接触する訳にはいかないし。

羽久・グラスフィアとも、会う機会がない。

何せ、彼が担当する時魔法の授業は、僕ら一年生はまだ受けられない。

大体あの人は空っぽだから、見ても仕方がない。

「あ、でも」

僕は、ふと思い出した。

「本当なのか嘘なのか、分かりませんけど…。学院に不審者が侵入したそうですよ」

「不審者?」

まさかあの学院に、僕以外の不審者が侵入するとは思ってなかった。

「まぁ、あくまで噂ですけど。少なくとも、避難訓練ではない緊急放送が流れたのは事実です」

「…不審者…誰のことだ」

「それが分かったら苦労してませんよ」

もしかしたら、本当は不審者なんていなかったのかも。

まぁ僕の勘だと、事実なのだろう。

何かあったとしても、何事もなかったかのように振る舞うのは、あの学院長の十八番だからな。

生徒に心配はかけたくない、とか言って。

随分お優しいことで。

「あぁ、それと…今度運動会があるんですけど」

「運動会だと…?」

眉間に皺を寄せる、僕のスポンサー。

いや、僕に怒られても。

「学院長のお気に入りイベントだそうですよ」

「…あの男、そんな下らないことに…」

確かに下らない。

魔導学院に、何故運動会が必要なのか。

理解に苦しむ。

それでもやりたいと言うのだから、シルナ・エインリーにはシルナ・エインリーなりの、考えがあるのだろう。

文句を言うなら、本人に直接言ってくれ。

「当日は、学院が開放されて、父兄も見に来られるそうですよ」

「それが?」

「見に来たらどうです?」

「…」

スポンサー様は、元々険しい顔を更に険しくさせた。

折角誘ってあげたのに。

「来たくなければ別に…」

「…考えておく」

…おぉ。

てっきり、「誰が行くか」と吐き捨てるかと思ったのだが。

見たくなったか。仇の姿を。

「あなたを見ても、敢えて知らない振りをしますよ、僕は」

「それで良い。あくまで私とお前は他人だ」

かと言って、味方でもないってね。

なんともいじらしい間柄じゃないか。

お互い、ただ利用し合っているだけなんだが。
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