神殺しのクロノスタシス2
「よーし、それじゃ出すぞー」

僕が所属する赤組のリーダー(六年生)が、生徒用テントの後ろに鎮座していたそれを、テントの外に出した。

最初にこの種目のことを聞いたときは、思わず失笑しかけた。

イーニシュフェルト魔導学院の名前は、伊達じゃないってか?

一応、ただの運動会じゃないってことだな。

で、何の種目かと言うと。

リーダーが、それに被せていたビニールシートを取り払った。

赤組の最高傑作とやらの、お披露目である。

それは、魔導人形である。

学院の稽古場に、何体も置いてある、魔法の練習道具。

しかし、今はただの魔導人形ではない。

イーニシュフェルト魔導学院運動会の、メインイベント。

それは、この魔導人形による大合戦なのである。

一ヶ月ほど前、各チームに一体ずつ、普通の魔導人形を渡され。

運動会当日までに、これを各々魔法でカスタマイズし。

そして、カスタマイズされた魔導人形を、この場で各チームごとに対決させる。

自分のチームの人形を壊されたら負け。最後まで壊されなかったチームが勝ち。

と、いうシンプルなルール。

これが、種目の内容である。

例年通りなら、チームが五つあったので、トーナメント形式だったそうだが。

今年は三チームしかないので、三巴の戦いとなるらしい。

僕に言わせれば、こんなの楽勝である。

青でも黄でもどっちでも良いから、どちらかのチームのリーダーに接触し。

内密に「まずはあいつらを潰そうぜ」と共闘を持ちかけ。

先にそいつを二対一で潰してから、改めて一騎討ちすれば良い。

そうすれば、少なくともビリにはならない。

これも戦略である。

あるいは、敢えて前線からは退いて、自分以外のチームが互いに争っているところを、体力温存させたまま見守り。

どちらかが潰れたところに、一気に殴り込む、とか。

こういう悪どい戦法なら、いくらでも思い付くのに。

大変お優しいイーニシュフェルト魔導学院の生徒達は、誰一人として、僕のような戦い方を提案する者はいなかった。

僕の性格がねじ曲がってるのか、イーニシュフェルト魔導学院の生徒が優し過ぎるのか。

いずれにしても、このカスタマイズされた魔導人形が、ただの木偶の坊であることに変わりはない。
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