神殺しのクロノスタシス2
更に、この時期になると。

毎年の、シルナの恒例行事がある。





「…」

「…」

イーニシュフェルト魔導学院、校庭にある桜の木。

今年も大輪の花を咲かせるその桜の木の下で、イーニシュフェルトの新入生達は。

美しい桜を楽しむでもなく、むしろ不安げな面持ちで、お互いの顔を見合わせていた。

その手元には、お茶とお弁当。

今日は、毎年恒例、新入生お花見会の日なのだ。

シルナ・エインリー学院長主催の、な。

今朝、「今日の昼休みは、学院長主催で校庭でお花見会をするから、昼休みになったら校庭に出てくるように」と生徒達に伝えると。

彼らは嬉しそうな顔をしなかった。

むしろ、困ったような…戸惑ったような表情を見せた。

お花見が嫌なのではない。

これがもし、シルナ関係なく、クラスでのお花見会だと言われれば、多分喜んだだろう。

問題は、学院長であるシルナが絡むことだ。

前述の通り、新入生はまだ、シルナが「あんな」学院長であることを知らない。

シルナ・エインリー学院長と聞いて、親しみよりまず、畏怖の方が強いのだ。

「え?学院長来るの…?」みたいな、生徒達のこの顔。

彼らにしてみれば、あまりに畏れ多くて、一緒に食事なんて楽しめたものじゃない。

「そもそも何で学院長がお花見なんて…?」

「分かんない…。何話したら良いのかな…?」

「無理。あの学院長と気軽に話なんて出来ないよ…」

ひそひそと、生徒がそんな話をしているのが聞こえてきた。

…まぁ、気持ちは分かる。

シルナがどんな人物か知らなければ、そう思うのは当然だ。

「あの」シルナ・エインリーなのだ。

顔を上げて直接話をするのも憚られるのに、ましてや一緒に桜を楽しみながら食事なんて、とても…。

しかも、花見会主催者である当のシルナは、昼休みになったのに、まだ姿を現していない。

何処で油を売ってるのやら。

シルナが遅刻していることも、生徒達の不安をより掻き立てていた。

「もしかして、迎えに上がった方が良いのかな…?」

「そんな…。でも、もし来客対応とかして遅れてるだけなら、逆に迷惑に…」

「そうだよ。忙しいところを邪魔されたら、きっと…」

シルナの怒りに触れてしまうのではないかと、怯える生徒達。

…可哀想になってきた。

大丈夫。今日、来客ないから。

「君達、大丈夫だよ。シルナのことだから…」

あまりに生徒達が不憫になってきたので、彼らを励まそうとしたら。

「ごめーん!みんな~っ!」

シルナが、でっかい段ボール箱を抱えて、校庭をダッシュしてきた。
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