神殺しのクロノスタシス2
「が、学院長先生!?」

重そうな荷物を抱えるシルナに、何人かの生徒が慌てて立ち上がり、シルナの荷物を代わりに持とうとした。

良い子達だ。

「遅れてごめんね~っ!これ、用意してたら遅くなっちゃって!」

「え、こ…これ?」

生徒達は、段ボール箱の中を覗き込んだ。

一体どんな恐ろしいものが入っているのかと、戦々恐々としながら。

しかし、何のことはない。

「え…?か、菓子…?」

「そう、お菓子!」

シルナは、目をきらきらと輝かせていた。

段ボール箱の中には、一つ一つリボンで綺麗にラッピングされた、小分けのお菓子がたくさん入っていた。

「皆にあるんだよ!はいっ、君も。はいっ」

「え?え?」

シルナは、近くにいる生徒から順番に、菓子袋を手渡していった。

シルナからお菓子を渡された生徒、口を開けてぽかーん。

「はいっ、はいっ。あっ、羽久のもあるよ~。はいっ」

「…何で俺のまであるんだよ…」

俺教師側なんだけど?生徒じゃないぞ。

「皆もらった?予備もあるから、欲しかったら言ってね!」

全員に行き渡らせたにも関わらず、段ボール箱の中には、まだまだ菓子袋が詰まっていた。

どれだけ用意したんだ。

「え…。が、学院長先生…?」

「やっぱりお花見には、お菓子が要ると思ってね!一個ずつラッピングしたんだよ~」

超良い笑顔で応えるシルナ。

困惑する生徒達。

「さ、お弁当食べよっか!桜綺麗だね~!」

シルナは、自分も生徒かってくらいの気軽さで、生徒達の輪の中に入った。

お前って奴は。

「…あれ?皆食べないの?」

「えっ」

生徒達が、困惑するばかりで、全然食べようとしないことに気づいたらしいシルナ。

そりゃ、あれだけ警戒していた学院長が、こんなに間抜けな姿を晒したんだから、困惑もするだろう。

しかしシルナは、そんなことには気づかない。

「…あっ、もしかして皆、このお弁当苦手?」

「えっ」

「いやね?若い子は、オーソドックスな幕の内とかより、ハンバーグとか唐揚げ弁当とかの方が好きかなと思って、ミックスフライ弁当にしてみたんだけど…」

「…」

「もしかして嫌いだった…?」

「あ、いや…そんなことは」

まぁ、若い子は野菜多めの幕の内弁当よりは。

若干肉々しいと言うか、カロリー高めな茶色一色弁当の方が好まれるよな。

人にもよると思うけど。

「じゃあ食べよ!いただきま~す」

「…」

生徒よりも無邪気に弁当にパクつく学院長に、新入生達はぽかーん顔であった。
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