神殺しのクロノスタシス2
七不思議なんて、所詮生徒がでっち上げた与太話だと思っていたが。

マジなの?

「あわわわわわわわ〓▲*@▼△」

シルナ、大パニック。

「あれが例の魔導書か…」

「ちょっ、ちょっ、羽久危ないよ!呪われたらどうするの!?」

「それを確かめる為に触るんだろ」

何らかの呪いがかかったとしても。

まぁ、シルナが何とかしてくれるだろう。

俺は、あわあわするシルナを横目に、その一冊の本を手に取った。

生徒達が語った七不思議で言うと、ページには、赤い血がべったりついてる…らしいが。

「…全然赤くないじゃん」

パラパラとページを捲ってみるも、何の変哲もない、ただの本。

しかも。

「これ…魔導書じゃないぞ」

「あわあわあわわわわわ」

「おいシルナ!しっかりしろ。これ、魔導書じゃない」

「ふぇ…?」

俺は、本の表紙にでかでかと書いてあるタイトルを見せた。

『ルティス帝国英雄伝』というタイトルだ。

ルーデュニア聖王国の国民なら、誰もが知っている名作。

大昔、他種族への差別と弾圧を終わらせる為に、革命を起こした英雄の伝記である。

ノンフィクションなのか、創作なのかは分からないけど。

とにかく。

これは、魔導書などではない。

何処の図書館でも書店でも売っている、普通の本だ。

おまけに、血のついたページなんて一ページもない。

多少古くなって、経年劣化による日焼けや細かな汚れはあれど。

これが、七不思議?

「何で…?」

「さぁ…。あ」

「あ?」

「あれ見て」

俺は、本棚の上の方を指差した。

本棚の中で、ドミノ倒しが起きていた。

多分、スカスカだったスペースに入れたもんだから、ふとした瞬間に、雪なだれが起きたのだろう。

で、一番端にあったこの本が、床に落ちた。

それだけの話だ。

つまり。

「単なる偶然ってことか…」

「ほ、本当に?本当に偶然なの…?」

「『ルティス帝国英雄伝』に曰くがあるなら、ほぼ全国民が呪われなきゃならなくなるぞ」

有名な本なんだから。

俺は、『ルティス帝国英雄伝』をもとの位置に戻し、雪崩を起こしていた本も、もとに戻した。

よし。これで大丈夫。

「ほら、次行くぞ次」

「ふぇぇ…。もう帰りたい…」

「情けないことを言うな」

俺は、シルナを引き摺るようにして、図書室を出た。
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