神殺しのクロノスタシス2
イーニシュフェルト魔導学院の女神。

すなわち、イレースのことである。

「…何ですか、この体たらくは」

ぐでーん、とデスクに突っ伏すシルナを見て、イレースの目がきらりと輝いた。

イレースの目が光るとき。それは、彼女の杖に雷が宿るときである。

「…とりあえず、電気ショックで叩き起こしますか」

「起きてる起きてる!起きてるから!」

シルナは、慌ててがばっと起き上がった。

危ないところだったな。

命拾いしたと言っても良い。

「生徒がいないからと言って、仕事がなくなった訳ではありませんよ」

イレースは冷たくそう言って、持参した分厚い書類の束を、ドサッ、とデスクの上に置いた。

銃弾防げそうな分厚さだ。

これには、シルナも真っ青。

「むしろ授業がない今だからこそ、普段後回しにしている書類仕事に時間を割けるというもの。呑気に昼寝してる暇はありませんよ」

「は、ひゃい…」

シルナ、震え声。

さすがのイーニシュフェルト魔導学院学院長と言えど。

元ラミッドフルスの鬼教官には逆らえない。

だって正論だし。

生徒が夏休みに入って、普段の授業はなくなった。

でも、それで暇になる訳でもない。

生徒の一学期の成績表作成、出欠表の管理、二学期の授業計画、その他諸々、やることは山積み。

教師って、色々大変なんだよ、これでも。

教壇に立って、偉そうに教科書読んでるだけの仕事かと思われがちだけど。

これが意外にそうでもないの。

おまけに。

「うちの学院は、教師がほぼあなただけなんですから、休んでる暇はありません」

その通り。

普通の学院なら、自分の担当している科目だけを管理すれば良いが。

うちは、俺とイレース以外、全科目シルナ(の、分身)が授業を担当している。

従って、こんな風にダラダラしている暇は、一秒だってないのだ。

それなのに。

「でもでも、生徒達が夏休みを謳歌してるんだよ?私だって、少しくらい夏休みが…」

「夏休みは、生徒が帰省して自主勉強に励む時間であって、学院長に夏休みはありません」

無情なイレース。

でも正論だし。

「だ、だって外も暑いし。そうだ!アイス、アイスクリーム食べようよ。暑いでしょ?イレースちゃんも一緒に、」

「…そんなに暑いなら、氷漬けにしてあげましょうか?」

イレースの杖が、氷を纏った。

あーあ。

「生憎氷魔法はあまり得意ではありませんが、人一人氷漬けにするくらいは…」

「暑くない暑くない!今日涼しいね!いやぁ仕事日和だなー!」

冷や汗かきながら、シルナはペンを取って書類に向かった。

そう。それで良い。

さすが鬼教官。頼りになる。
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