神殺しのクロノスタシス2
「…それで」

他の幹部、シルヴェスタが口を開いた。

「シルナ・エインリーは?あの男はどうなってる」

…それを知りたくて堪らないようだな。

だが。

「さぁ。どうなってるんでしょうね」

「…!お前…」

シルヴェスタは、怒りをあらわにして僕を睨んだ。

おぉ、怒ってる怒ってる。

「何だ、その無責任な態度は。何の為に、お前をイーニシュフェルト魔導学院に潜り込ませたと…」

「じゃあ僕じゃなくて、あなたが行けば良かったじゃないですか」

「…!」

「僕より成果をあげられる自信があるのなら、ですけど」

ほんのさっきまで、パーシヴァルと口喧嘩していたのと同じやり取り。

実に不毛だ。

「なんか勘違いしているようだから、言っておきますけど」

僕をイーニシュフェルトに潜り込ませれば、スパイとして活躍してくれると思ったのかもしれない。

そりゃ、そう思うのも無理ないが。

そんなに上手く行くなら、苦労はしないというものだ。

「学院の中で授業を行ってるシルナ・エインリーは、あくまで分身なので」

その辺りのこと、ちゃんと理解してもらわないと。

「分身なんかいくら観察したって、空っぽですよ。何の中身もない」

「…」

これには、パーシヴァルやシルヴェスタ、他の幹部達も黙り込んだ。

イーニシュフェルトに潜り込んだからって、全ての情報を掌握出来ると思ったら、大違い。

イーニシュフェルトに、あの学院にシルナ・エインリーはいる。それは確かだ。

だが。

僕達一般生徒が授業で会えるのは、シルナ・エインリーの分身に過ぎない。

分身をいくら観察したって、何も得られるものはない。

「シルナ・エインリー本人には、接触していないのか」

「今のところは」

「私が止めてるんだ」

スポンサー様、リーダーのヴァルシーナが言った。

「ナジュ・アンブローシアをシルナ・エインリーの本体に接触させたら、感付かれるかもしれない」

かもね。

彼の観察眼は本物だ。

分身では気づかれなくても、本体と接触すれば。

僕が何者なのか、あの男なら、きっと気づくだろう。

それを避ける為にも、ヴァルシーナに言われていた。

出来るだけ、本体に会うのは避けろ、と。

だから、その通りにしている。

今のところ僕は、シルナ・エインリーの本体にはほとんど会っていない。

会ったとしても、こちらもそれなりの「演技」をしているときだけ。

学院長室にいるときのシルナ・エインリーは、本体であることが多いらしい。

学院長室には、生徒も自由に出入り出来るそうだから。

シルナ・エインリーの本体に会おうと思えば、会えなくはない。

だが。

その代わりに、僕の正体にも気づかれてしまう。

それは駄目だ。

あくまで僕は、イーニシュフェルト魔導学院の一年生、特に目立つこともなく、何処にでもいる一生徒。

そうでなくては、潜入した意味がない。

まぁ、夜中にこっそり、学院の地下書庫にも出入りしたりしてるのだが。

あくまでも、シルナ・エインリー本人との接触は、極力避けるべきだ。

今はまだ、な。
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