神殺しのクロノスタシス2
「表向きは、生徒思いの優しい教師…」

だけど、その裏には。

どす黒い闇を抱えている。

「だから皆騙される。シルナ・エインリーが間違っていることは明白なのに、あの男に籠絡されて、正しい道を見失う…」

「…それが、あいつの手管だ」

憎々しげに、ヴァルシーナが言った。

いやはや。

シルナ・エインリーの話は、ヴァルシーナから聞いていたが。

実際に観察してみると、さすがの僕も驚いたよ。

まぁ、直接会ったのは数回に過ぎないから、僕が頻繁に会ったのは、精々シルナ・エインリーの分身だけだが。

それだけでも、分かる。

伝わってくる。

彼の分身を観察して、見えてくるのは、彼の優しさだけだ。

授業中のシルナ・エインリーの分身は。

「少しでも生徒に分かりやすく伝えよう。」

「理解が追い付いてない生徒はいないだろうか?」

「もっと分かりやすく伝える方法はないだろうか。」

とか、そんなことしか考えてない。

随分「お優しい」先生じゃないか。

まるで教師の鑑のような人間だ。

放課後になれば、生徒を快く学院長室に招いて、雑談をしたり、相談に乗ったり、個人に合わせて特別講義をしたり。

そんなことをしてくれる教師が、何処にいる?

あんなにも生徒に真摯に向き合い、生徒と心を通わせる教師がいるだろうか。

イーニシュフェルト魔導学院の生徒なら、誰もが言う。

シルナ・エインリー学院長は、素晴らしい人間だと。

優しくて親切で、穏やかで。

凄いね。

逆に尊敬するよ。

ヴァルシーナから、シルナ・エインリーの過去を聞いていなかったら、僕も他のクラスメイトと同じように。

口を揃えて、学院長は良い人だと言っていただろうね。

でも、実はそうじゃない。

あれは全部演技で、本当のシルナ・エインリーは別にいる。

ヴァルシーナの言う通り。

あの見せかけの優しさが、シルナ・エインリーの手管なのだ。
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