神殺しのクロノスタシス2
この場にいる全員が、知っている。

シルナ・エインリーの、見せかけの仮面を。

だから、ここにいる。

シルナ・エインリーが、自分勝手に作り上げたこの世界を、「破滅」させる為に。

「…シルナ・エインリーと羽久・グラスフィアが、『禁忌の黒魔導書』について調べているそうだが」

と、切り出したのはレイモンドである。

あぁ…あったね、そんなこと。

「それについては、何処まで進んでる?」

「さぁ。シルナ・エインリーに聞いてみてください」

「…」

レイモンドは、険しい顔でこちらを睨んだ。

あー怖い。

「結局、意味がないではないか」

「何が?」

「アンブローシアを、イーニシュフェルト魔導学院に潜入させたことだ」

ほう。

折角僕を潜入させたのに、肝心な部分の情報は、何も得られてない。

観察出来るのは、シルナ・エインリーの分身と、空っぽの羽久・グラスフィア。

あとは、禁書の捜査には関係のないイレース・クローリアくらい。

これだけじゃ、リスクばかりが上がるばかりで、成果に乏しい。

はぁ、そうですか。

僕の苦労も知らないで、良い気なものだ。

だったら、僕の代わりに行ってくれよ。

それが出来るものならな。

「僕だって努力してるんですけどねぇ」

深夜、校舎の中をうろついたり。

学院内の図書室にも、忍び込んだ。

勿論、施錠された地下図書室に、だ。

シルナ・エインリーが隠している魔導書の類を、探ってやろうと思って。

とはいえ、ルーデュニア聖王国にある貴重な魔導書は、基本的に国立図書館の地下に納められている。

お陰で、危険に身を晒して図書室に忍び込んだというのに、大した情報は得られなかった。

まぁ、本当にヤバい魔導書を、あの狡猾なシルナ・エインリーが図書室なんかに隠しておく訳がない。

ちゃんと、自分のお膝元に置いてあるさ。

そういう意味では、確かに僕のスパイ活動は無駄なのかもしれないけど。

「どうします?リーダー」

僕は、ヴァルシーナに問い掛けた。

「なんか僕、努力してるのに、皆さんが思ってるほど成果を出せてないみたいなんですけど。やめます?」

一度入ったら、出るのは難しいけどな。

あの学院長のこと、生徒が退学を希望しようものなら、全力で引き留めにかかるに違いない。

やめるなら、それなりの「口実」を用意しなくては。

あの学院長を騙すのは、なかなかに難しいぞ。

「正直、僕もこれ以上長居しても仕方ないと思ってるんですけど」

と、切り出した。

「いくら観察したって、分身と空っぽを見ても意味がない。イレース・クローリアから得られる情報は少ないし、何処ぞの優秀な魔導師とやらは大したことがないし…」

「…」

「…これ以上、イーニシュフェルト魔導学院にいる必要、あります?」

正直、僕も疲れてきたんだよね。

イーニシュフェルト魔導学院で、呑気な「学生」を演じるのは。
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