神殺しのクロノスタシス2

side羽久

─────…その同時刻、学院長室では。

生徒は授業を受けているのに、学院長であるシルナは、ぽりぽりとおやつを摘まんでいた。

これ、シルナの午後の習慣みたいなもんだから。

満足するまでおやつを食べたら、この人、この後昼寝を始めるからな。

これがイーニシュフェルト魔導学院の学院長というのだから、世も末だ。

しかも今は、そんなシルナの後頭部を蹴っ飛ばし、檄を入れるイレースも不在。

今頃、なんとか委員会とやらに出席しているのだろう。

もう名前忘れたよ。

まぁ良いか。

止めても言うこと聞かないし。放っとこう。

すると、突然。

完全まったりモードだったシルナが、がばっと起き上がった。

これには、俺の方がびっくりした。

「な、何…?」

どうしたんだ。いきなり。

クモでも降ってきたのか?

「…消された」

シルナは、俺の顔を見ながら一言、そう言った。

…消された?

「消されたって、まさか…」

「私の分身」

そうだよな。

それ以外にない。けど…。

「何で消された?」

シルナの分身を消すことが出来る人間が、この学院に何人いると思う?

分身分身と軽く言うけど、シルナの分身は、意外にあれで丈夫に作られているのだ。

並みの魔導師なら、真っ当に相手出来るくらいの強さはある。

そんなシルナの分身を、消せる人間が何人いる?

この学院には、生徒達と、シルナの分身と、シルナ本体と俺しかいない。

この中で、シルナ分身を消せる者は…。

…俺と、本体であるシルナ以外にいないはず。

いや、もう一人。

シルナが個人的に匿っている、天音がいるけれど…。

でも天音には、シルナの分身を消す理由がない。

むしろ天音は、シルナに助けられ、恩義を感じているくらいなのだ。

だから、天音ではない。

生徒達は、確かに優秀な魔導師の卵ではあるけれど、シルナの分身を消せるほどではない。

クラスメイトがよってたかって攻撃した、とかならまだ分かるけど。

生徒達は、この学院の教師が、実は三人しかいないことを知らないはず。

皆、シルナの分身のことを本物の人間だと思っている。

たまに、稀なケースとして、「教師」がシルナの分身であることを、一目で見抜く生徒が現れる。

シュニィなんか、良い例だ。

だが、そんな生徒が現れるのは、本当に稀なのだ。

現在この学院に在籍する生徒で、それを見破るほどの実力を持つ生徒はいない。

別に、今の生徒達が無能だから、って訳じゃない。

シルナが使う、分身の魔法は、非常に高度な技術を要する。

素人や、並みの魔導師なら見抜けないほどに。

むしろ、見破れる方がおかしいのだ。

…いや、待て。

思い当たる節がある。

もしかして、あの匿名の目安箱に入れられていたメモ…。
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