神殺しのクロノスタシス2
「…それを消したのは、君だね?」

シルナ・エインリーは、教壇で憐れに引き裂かれた自分の…分身の残骸を横目で見た。

「えぇ、そうです」

「…どうして、私の生徒達がああなってるの?」

ああなってるの、とは。

教室の後ろに固められて、両手を上げさせられてることか。

その理由は簡単。

「あなたに対する、人質の為です」

「分かった。可能な限り、君の要望に従う。だから、人質を解放して欲しい」

「…あはは」

全く迷わなかったね。

迷わず、生徒の命を選んだ。

「可能な限り、ですか…。じゃあ今ここで切腹してくださいって言ったら、してくれるんですか」

「…」

まんざらでもない、って?

本当にあなたは、あなたという人は…。

…ヴァルシーナが、夢中になる理由が分かった。

なんて滑稽な茶番劇。

何より愉快なのは、その道化の渦中に僕が巻き込まれていることだ。

「残念ですが、人質は解放しません」

「…」

「それから、もう一つ…。あなたに良いことを教えてあげます」

僕は、ポケットの中のボタンを一つ、押した。

瞬間、校舎内に爆発音が聞こえた。

「!?」

あぁ、驚いてますね。

「この校舎内、各所に爆弾を仕掛けさせてもらいました」

「君は…!」

「大丈夫ですよ、今のは威嚇です。今爆破したのは無人の空き教室なので」

死者はおろか、怪我人すら出ていないはずだ。

いつの間にそんな爆弾を仕掛けたのか、気になるか?

ほら、例の避難訓練のときとか。

夜中に校舎に忍び込んだりね。

「でも、次はありません。次に爆弾が爆発するとき、あなたの大好きな生徒達が死にます」

「…!」

憤ってますね。

怒ってますね。

でも。

あなたが怒れば怒るほど、僕はその姿が、滑稽で滑稽で仕方ない。

「…君は何の為に、こんなことを?」

シルナ・エインリーは、苦虫を噛み潰したような顔で、僕に問いかけた。

こんな表情を見るのも、初めてだな。

うっかり教えてあげたくなる。

僕が、何をしようとしているのか。

「…」

でも、教えてあげない。

意地悪だと思うだろう?

いや、むしろ怒らせただけか。

「君が何を考えてるのかは分からない。でも、今すぐこんなことはやめなさい」

毅然として、シルナ・エインリーはそう言った。

「今ならまだ間に合う。私に話して欲しい。君が、こんなことをしなければならなかった理由を」

「…」

「君が何を抱えていようと、私が君の重荷を降ろしてあげるから。必ず。君も彼らも同じ、私の生徒の一人…」

「…あはは…」

「…?」

なんて滑稽な。なんて滑稽な言葉だろう。

本当に、この場にヴァルシーナがいたら良かったのに。

きっと、この校舎を吹き飛ばすほどの、大乱闘を繰り広げることになっただろう。

想像しただけで、愉快で堪らない。
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