神殺しのクロノスタシス2
…成程、分かったよ。

この人は、こうやって、人を騙すんだな。

「君の目的は何なんだ?」

「…教えてあげません」

「どうして?誰かに脅されてるから?それとも…」

誰かに脅されてる?

僕があなたを脅しているのに。

「あなたが嘘つきだからですよ」

「…嘘つき?」

あぁ、少し揺らいだね。

自覚、あったんだ。

狡猾な嘘をつき続けておきながら、聖人面をする厚顔無恥な男だと思っていたのだが。

どうやら、人並みの良心は持ち合わせているらしい。

なら、もっと試してみようか。

僕はシルナ・エインリーを無視して、くるりと振り向き、怯えるクラスメイト達と対峙した。

彼らは、一斉に怯えた顔を見せた。

どうして僕を、そんなに怖がる必要がある?

「皆さん、僕を恐れる必要はないですよ」

だって。僕の後ろを見てみろ。

「あなた達の大好きな、あの学院長の方が…余程怖いじゃないですか」

シルナ・エインリーという名の、この大悪党に比べたら。

僕なんて、精々小学生の万引きみたいなものだ。

「皆騙されてるんですよ、あの学院長に」

シルナ・エインリーが息を呑むのが分かった。

しかし、何も知らないクラスメイトは、僕の言葉に、ただ戸惑うだけ。

「あの人は、自分と自分の大事な人のことしか考えてない。他は全部手駒で、あなた達を懐柔し、味方につけて、いざとなったときの為の魔力の予備タンクとして、あなた達の命を捧げようとしてるんです」

生徒思いの優しい教師?

気さくで穏やかな聖人?

笑わせてくれる。

「ねぇ、そうでしょう?イーニシュフェルトの堕ちた聖賢者…神殺しの魔法の使い手、シルナ・エインリー」

「…」

振り向くと、シルナ・エインリーはじっと僕を見つめていた。

…そうまで言われても、動じないのか。

裏切り者と罵られるのは覚悟のうち、って?

そして。

「…君の目的は、何?」

改めて、そう聞いてきた。

僕の本当の目的はただ一つ。

だけど、今は言わない。

だって、まだ叶わないのが分かってるから。

だから、今すぐ叶う方の目的を、教えてあげよう。

「…ベリクリーデ・イシュテアを、こちらに渡してください」

それが、僕のスポンサーである『カタストロフィ』の計画の、第一段階なのだ。
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