神殺しのクロノスタシス2
「ベリクリーデちゃんを…?」

「何故彼女を欲しがるか、分からないあなたではないですよね」

「…」

沈黙は、肯定の証だ。

厳密に言えば、ベリクリーデ・イシュテアという人間が欲しいのではない。

欲しいのは、その中身。

彼女の中に封じられた聖なる神と、そしてそれを封じ込めている光の『聖宝具』。

『カタストロフィ』の計画の為…そして、僕の望みの為に、不可欠なのだ。

同じことをするなら、羽久・グラスフィアでも構わないのだが。

シルナ・エインリーが羽久・グラスフィアを引き渡すはずがないし。

あいつの中身は、ベリクリーデ・イシュテアのそれよりも、ずっと凶悪だ。

ならば、ベリクリーデの方が良い。

「応じないなら、彼らの命は…」

「…君が何を、何処まで知ってるのか知らないけど」

シルナ・エインリーは、静かに言った。

人質の命を忘れた訳ではなかろうが。

「…今すぐ身を引くんだ。取り返しがつかないことになる前に」

「…笑わせないでくださいよ」

取り返しなんて、もうとっくにつかないんだよ。

…僕の脳裏に、あの日の光景が浮かんだ。

涙を流す、彼女の姿が。

あの日からずっと。

僕は、たった一つの目的を果たす為に生きてきた。

その代償が何であろうと、僕には関係ない。

「…さぁ、早く決めてください」

あなたには、元々選択肢なんてない。

生徒の命を守る為。

何より、羽久・グラスフィアを守る為なら。

他の命なんて、あなたにはどうでも良いものでしかない。

ましてやベリクリーデ・イシュテアの命など。

「中身」ごと彼女が消えてくれたら、シルナ・エインリーにとっても有り難いだろう?

ならば…。

「生徒の命が惜しくないんですか?あなたの可愛い…生け贄達が」

「…」

「だったら、まず一人や二人…」

殺してみせようか、と思ったが。

「…君だね?」

「は?」

「君なんだね。『禁忌の黒魔導書』の封印を解いて、禁書を世界中にばらまいたのは」

「…」

…あぁ。

成程、その件について、依頼を受けてたんだっけ。

ヴァルシーナからは何も指示されてないが、もう気づかれているのだから、話しても構わないだろう。

「えぇ。僕ですよ」

何を隠そう。

『禁忌の黒魔導書』を世に放ったのは、僕だ。

もっと正しく言えば、僕達、なんだけど。
< 229 / 742 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop