神殺しのクロノスタシス2

sideシルナ

──────…この子は。

この子は、まともに相手してはいけない。

ただ対峙しているだけで、何もかもを見透かされているような気がする。

それに、この子は知っている。

私が…私が、神殺しの魔法を使えること。

そして、羽久の中にあるもののことも。

どうして気づけなかった。

この子は、始めから、この日の為に学院に入学してきたのだろうか。

それとも、何か事情が変わって…。

…いや。

今は、それを考えている暇はない。

そんなこと、後でいくらでも考えれば良い。

まず、人質にされた生徒達を、無事に保護することだ。

それが最優先。

ナジュ君のことは後回しだ。

そして。

「…ベリクリーデちゃんは、渡さない」

「どうしてですか?」

「彼女は、私の大事な…」

「いなくなれば良いと思ってる癖に」

「…?」

…何だって?

「あの女がいなくなれば、大好きな羽久・グラスフィアの命は、永遠に守られる。そうでしょう?」

「…それは…」

確かに、私は…ベリクリーデちゃんを殺すことを、考えなかった訳じゃない。

ベリクリーデちゃんと、その中にいる神を殺してしまえば、私と二十音が脅かされることはない。

だけど。

「…ベリクリーデちゃんは渡さない」

「あぁ。あなたは力ある者を、自分の手元に残したがるんですよね。いつか自分の手駒として使う為に」

…否定は出来ない。

これに関しては、私は否定することが出来なかった。

「確かに、聖なる神を呼び戻されたら困りますもんね。ベリクリーデ・イシュテア自身はどうでも良いけど、聖なる神を他の人間の手に渡すのは困る」

「違うよ。私はベリクリーデちゃんを失いたくない」

「いいえ嘘です。自分でそう思い込んでるだけで、あなたはベリクリーデ・イシュテアを邪魔者だと思ってる」

「…!」

そんな、馬鹿な。

私はそんなこと、一度も。

「あなたの目指す理想郷。あなたが望むのは、いつだって一人だけ…。他の全てなんて、どうでも良い」

「…」

心を揺れ動かされる。

「誰かが都合良く、ベリクリーデ・イシュテアを殺してくれたら良いのにと思ってる。自分の手を汚さずに彼女が死ねば、あなたにとっては完璧なシナリオですよね。あなたは可愛い教え子を失った、悲劇の主人公の振りをしていれば良いのだから」

「…」

考えがまとまらなくなる。

「あるいは、正義の味方の振りをして聖なる神を殺しますか?復活した神様が、羽久・グラスフィアを襲おうとして、それを止めようとやむなくベリクリーデ・イシュテアを殺す…。これも良いですよね。いずれにしても、あなたは世界を救ったヒーローになる。これで二回目」

「…君は…」

「あなたは本当に狡猾な人間です。全て計算ずくなんですから。自分の手駒を好きなだけ周りに集めて、自分の正体を、本性を知られても、悲しげな顔をして『自分を憎んでくれ』と言えば、手駒達はあなたを許すのだから。それすら、あなたにとっては計画のうちなんでしょう」

「…君は」

「はい、何でしょう」

「君は、一体…何者なんだ?」

まるで、心のうちを見透かされているような。

心の中の、誰にも触れられたくない部分を、無理矢理掴み出されたような。

そんな気味悪さを感じた。

「…さて、誰なんでしょうね。当ててみますか?」

彼はそう言って、微笑んだ。

そのときだった。

「…シルナ!」

背後から呼び掛ける、羽久のその声がなければ。

私は、とてつもない闇に引き摺り込まれるところだった。
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