神殺しのクロノスタシス2

side羽久

──────…天音を連れて、1年Aクラスに来てみたら。

シルナが、あのシルナが。

青ざめた顔をして、そこにいた。

ただならぬ何かが起きたのだと分かった。

「は、羽久…」

「大丈夫か、シルナ」

「…」

全然大丈夫じゃなそうだ。

俺が呼び掛けてくれなかったら、どうなっていたか。

シルナがこれほど狼狽しているのだ。教室の中は、きっと阿鼻叫喚に違いない。

そう思って、俺はシルナを守るようにして、教室内に飛び込んだ。

確かに、教室の中は阿鼻叫喚だった。

生徒達が全員、教室の後ろに固まって、両手を上げていた。

だが、それだけだった。

シルナがこれほど狼狽しているのだ。

教室の中に、赤い絨毯が出来ているかもしれない…くらいのことは、覚悟していた。

でも、そんなことはなかった。

生徒達は、全員無事だ。

怯えた顔をしてはいるけれど、怪我人はいなさそうだ。

しかし、それなら何故シルナはこんなにも…。

「あぁ…。来ましたね。空っぽのお人形さんが」

「…お前…」

この教室の中で、唯一余裕たっぷりの表情をしている人間。

彼は、イーニシュフェルト魔導学院の制服を着ていた。

こいつ、見覚えがあるぞ。

確か風魔法の授業のときに…。

「覚えて頂いて光栄です。空っぽの羽久・グラスフィア先生」

「…空っぽ…だと?」

「えぇ。気づいてないんですか?」

…それは。

いや…今は、それは、そんなことは、どうでも良い。

「お前…シルナに…何をした?」

「何も。ただ、本当のことを言っただけですよ」

本当のことって…こいつ、まさか。

まさか、シルナの過去のこと、知って、

「…『殺戮の堕天使』」

俺の後ろにいた、天音が。

顔面蒼白で、そう呟いた。
< 231 / 742 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop