神殺しのクロノスタシス2
「…あいつがここに来ていたなんて…!」

『殺戮の堕天使』に並々ならぬ憎しみを抱いている天音は、悔しげに唇を噛み締めた。

…灯台もと暗し、とは…よく言ったものだな。

本を隠すには図書館に。

魔導師を隠すには魔導学院に、ってか?

笑えないな。

まさかあんなに近くに、仇がいるなんて。

そうと知っていれば、天音は黙っていなかっただろうに。

「あいつを探しましょう。ナジュ・アンブローシア…。あいつは危険です。すぐにでも…」

「…天音。気持ちは分かるが、今は落ち着け」

「落ち着いてなんて…!」

ようやく、仇のもとに辿り着いたのだ。

今すぐその恨みを晴らしたい。それは分かる。

でも。

ナジュ・アンブローシアは、僕達が『禁忌の黒魔導書』の封印を解いたと言った。

僕が、ではない。

僕達が、と言ったのだ。

つまりそれって。

「…仲間がいるんだろうね。他にも」

「…そうだな」

単独犯じゃない。

ナジュ・アンブローシアは、何処かしらの組織に所属し。

スパイとして、イーニシュフェルト魔導学院に忍び込んだのだ。

敵に仲間がいるのなら、迂闊には踏み込めない。

まずナジュ・アンブローシア本人が、あれほどの実力者なのだ。

きっと、彼の仲間も、弱くはないはずだ。

無闇に突っ走るのは、得策ではない…。

「…とにかく、聖魔騎士団に連絡して、応援を頼もう」

「…あぁ」

『禁忌の黒魔導書』を解き放った者を、放置してはおけない。

ついでに言うと、天音の話を聞くに、あいつは人殺しを何とも思ってない。

止めなくては。

それに、人質にされた生徒達の心のケアも必要だ。

「…怪しくなってきたな。雲行きが」

「…」

誰も、言葉を発することが出来なかった。
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