神殺しのクロノスタシス2
ここまで決まれば、残りは考えずとも、おのずと分かってくる。

「エリュティア君は、無闇君と組んで、残留組に入ってくれる?」

「分かりました」

「了解した」

無闇は、吐月と同じく、召喚魔導師。

前線に出るアタッカーだ。

対するエリュティアは、どちらかと言うとサポート型の魔導師だ。

それにエリュティアには、王都で探索魔法を使い、それを捜索組に伝達するという、大事な役目がある。

故に、いざというときエリュティアを守る為にも、無闇を護衛につけておく。

これで安心だろう。

そして、残るは。

「イレースちゃんも、天音君と一緒に学院に残って欲しい」

「…分かりました」

俺とシルナは、言うまでもなく捜索組だ。

俺達が『殺戮の堕天使』への対処に頭を抱えている間でも、学院は通常通り授業が行われる。

元々イーニシュフェルト魔導学院の教師は、三人しかいないのだ。

その中の二人が抜けるときたら、どうやっても一人は残らなければならない。

イレースも、それは分かっているだろう。

しかし。

「そんな…。僕は、僕も捜索組に入れてください。例え一人でも、僕はあいつを…!」

天音は、そう言って食い下がった。

『殺戮の堕天使』に並々ならぬ憎しみを覚えている。

次会うときは、この手で、という気持ちは、誰よりも強いはずだ。

でも、だからこそ、なのだ。

「君は行かない方が良い」

「っ、どうして!」

「そうやって、感情的になってしまうからだよ」

「…!」

シルナは、珍しくキツい言い方をして突っぱねた。

シルナとて、天音の気持ちが分からない訳じゃない。

出来ることなら、仇を討たせてやりたいとも思ってるだろう。

でも、今回は…私情を挟まれては困る。

「君はまだ、正式に聖魔騎士団の魔導師になってる訳じゃない」

あくまでも、イーニシュフェルト魔導学院の食客扱い。

そもそも天音の場合、他の国を転々としていた為、ルーデュニア聖王国の戸籍さえ持っていないのだ。

そして、問題がもう一つ。

「『殺戮の堕天使』ともう一度対峙したとき、君は彼に勝つ自信がある?」

…シルナの性格的に、そこまでは言わないかなと思ったが。

今日のシルナは、容赦がないな。

それだけ、事態を重く見ているということなのだろう。

「…っ」

これには、天音も言い返せなかった。

…相性が悪いのだ。

いくら前向きに考えても、天音は前線で戦うアタッカーじゃない。

彼は敵を傷つけるより、味方を癒す方が適している。

それに…。

「…天音君が、『殺戮の堕天使』を憎んでる、その気持ちは分かってるよ」

だからこそ。

「君はきっと、彼に会えば、感情的になってしまう。冷静ではいられない」

「…」

言い返す言葉がないのだろう。

天音は、悔しそうに唇を噛んだ。

『殺戮の堕天使』の方も、天音に会えば、煽ってくるだろうしな。

わざと。天音の冷静さを欠く為に。

敵の罠に、まんまと嵌まる訳にはいかない。

「だから、君は学院に残って、出来るなら、イレースちゃんの補佐をして欲しい」

「…分かりました」

唇を強く噛み締めて、天音は了承した。

天音にとって、辛い決断だったに違いない。
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