神殺しのクロノスタシス2
あの殺し損ねた、天音という魔導師の登場のせいで。

僕達が、綿密に考えて立てた計画が、台無しになってしまった。

本当に誤算だったよ。

だからって。

「ちっ…。役に立たない奴」

「…」

役立たず呼ばわりされるとは。

「アジト」でぬくぬくしてただけの奴が。

「お前のせいで、偉大な計画が狂う羽目になった」

「それだけじゃない。聖魔騎士団は、この男を追って、魔導部隊を派遣してくるはずだ」

「この責任、どう取ってくれるつもり?」

…皆して、言いたい放題。

ヴァルシーナを除いて、だが。

「…うるさいですね」

僕は、頬杖をついてそう言った。

あぁ、しまった言葉に出ちゃった。

心の中で言うつもりだったのに、つい出てしまった。

「何だと!?」

「貴様、自分が何をしたのか、分かっているのか!?」

そりゃ分かってるよ。

だからって。

「前も言いましたけど。ここでぬくぬくとノミを養っていただけの人間が、僕を責める権利があると思ってるんですか?」

一度心の声が出てしまったら、もう容赦をする必要はない。

言いたいこと、全部言わせてもらおうじゃないか。

大体、チームで立てた作戦の失敗は、連帯責任だろう。

何で、僕だけが悪いみたいになってるんだ。

「貴様…!言わせておけば!」

「好き勝手言ってるのは、そっちじゃないですか」

何をして欲しいんだ?僕に。

謝罪の言葉でも聞きたいと?渾身の土下座でも見せろと?

それとも、少しはしおらしくしていた方が良いのか?

そっちの方がウザくない?

開き直ってるくらいの方が、丁度良いのだ。

それに。

「じゃあ、お手本見せてくださいよ」

「何?」

「聖魔騎士団は、『禁忌の黒魔導書』の封印を解いた犯人を探してる。そして、僕という犯人を見つけた」

しかも、僕がやった、とは言ってない。

ちゃんと、僕「達」がやったと言ったぞ。

僕だけの責任にされちゃ、堪らないからな。

トカゲの尻尾切りなんて御免だ。

「聖魔騎士団は、全力を以て『カタストロフィ』を捜索するでしょう。そうなれば、最早ここも安全ではなくなります」

おめでとう。

君達、もうノミを養う必要なくなったよ。

おまけに、偉大な計画とやらの役に立てる。

良かったね。

「魔導部隊が本気を出せば、この異空間も探し出せるでしょう」

確か、聖魔騎士団魔導部隊には、探索魔法とかいうマニアックな魔法が得意な、マニアック魔導師がいるそうじゃないか。

僕も人のことは言えないが。

かの魔導師が本気を出せば、多分ここも見つかる。

僕達は、それほど空間魔法が得意な訳じゃないのだから。

いくら、人目につかない異空間の「アジト」でも。

本職が本気になって探されたら、いずれは見つかる。

長くはない。

時間稼ぎくらいなら、多少は出来るかもしれないけど。

精々目眩ましになる程度。

これでもう、僕だけの責任じゃなくなった。

他の皆にも、ちゃんと責任取ってもらうぞ。

そして失敗したら、言ってやるのだ。

この役立たずめが、と。

そのときが楽しみで仕方ないよ。

しかし、そのとき君達、生きてる?

「いつまで隠れていられるでしょうね?」

「…っ」

パーシヴァル以下、ヴァルシーナを除く幹部達は、苦虫を噛み潰したような顔をした。
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