神殺しのクロノスタシス2
「…大丈夫?ユイト君」

「…」

シルナは、心配そうに話しかけた。

ユイト・ランドルフ。

『殺戮の堕天使』、ルーチェス・ナジュ・アンブローシアの、ルームメイトだった生徒だ。

彼は、自分のルームメイト…もとい、友達…だと思っていた学友が。

あんなことになってしまって。

ユイト・ランドルフの落ち込みようは、他の生徒の比ではなかった。

「…俺、全然気づけなかった」

彼は、ぽつりとそう呟いた。

「同じ部屋にいたのに…。一番近くにいたのに…」

…この落ち込みっぷり。

お前のせいじゃないだろうに。

「ユイト君…。君には何の責任もないんだよ」

シルナは、ユイトの手を握って、そう言った。

「君は何も悪くない。彼の素性について気づけなかったのは、私達大人の責任なんだ」

シルナの言う通り。

このシルナ・エインリーが気づけなかったのだ。

言い方は悪いが…シルナが気づけなかったのに、一年生の生徒に気づけるはずがない。

それだけあいつは上手く、したたかに、狡猾に、隠し通してきたのだ。

気づかないのも無理はない。

むしろ、気づかなくて当たり前なのだ。

それなのに。

「俺が気づいて…止めていれば、こんなことには…」

「…ユイト君…」

駄目だ。

完全に、自分のせいだと思ってる。

そりゃ、昨日まで同じ部屋で寝食を共にしていた相手が、実は頭の中で、何やら物騒な、秘密の作戦を考えてたなんて。

昨日までに気づいていれば、何とか止めることも出来たかもしれない。

ずっと同じ部屋に暮らしていたのに、自分は何一つ疑うことなく、あっさりと騙されたままだった。

あまりの自分の不甲斐なさに、自責の念に苛まれている。

その気持ちはよく分かる。

俺達だって、同じ気持ちなんだから。

でも、彼の場合、半年間ずっと傍にいた分…気づけなかった自分が不甲斐ないのだろう。

気の毒に。

ユイト・ランドルフは何も悪くない。

「君のせいじゃないんだよ。自分を責める必要はない。全部大人達の責任なんだから」

シルナは、繰り返しそう言い続けた。

しかし。

「でも、俺…ずっと同じ部屋にいて…。友達…友達だと思ってたのに…」

…あぁ。

そういうことか。

『殺戮の堕天使』。お前の罪は重いぞ。

ユイトが、こんなにも落ち込んでいる理由。

それは、奴の本性を見抜けなかったことではない。

勿論、それも辛いのだろうけど。

しかし、それだけじゃなかったのだ。

…友達、だと思ってたんだな。

あいつのことを。
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