神殺しのクロノスタシス2
初対面で、ルームメイトになって。

それから半年間、同じ部屋で暮らした。

たった半年間だけの付き合いだったかもしれない。

でも、されど半年だ。

何もかも打ち明けられる仲…とまでは行かなくても。

最近何か様子がおかしいな、くらいは…気づけたかもしれないのに。

それなのに、自分は気づけなかった。

友達だと思ってたのに、裏切られた。

ユイトは、ルーチェス・ナジュ・アンブローシアに心を許していたのに。

向こうは、ユイトのことを友達だなんて、これっぽっちも思ってなかった。

…それどころか、人質にされたくらいだもんな。

落ち込んで当然だ。

「ユイト君…」

「何してたんだろう、俺…。全部一人相撲だったんだ…」

…そりゃ泣きもするわな。

あいつ、あのアンブローシアって奴。

今度会ったら、ただじゃ済まさんぞ。

「君は何も悪くないんだからね。大丈夫。あとのことは、私達に任せて。忘れて良いんだよ。彼のことはもう」

「…先生…」

「大丈夫だよ。すぐ、またもとの日常に戻れるから。戻してあげるから」

シルナが戻すと言ったなら、絶対にそうするだろう。

「でも…でもあいつ、ナジュは、どうなるんですか?何処に行ったんですか?何の為に、あんな…あんなことを」

涙に濡れた目で、ユイトはこちらを見上げた。

…奴が何処に行ったのか、何が望みなのか。

それは、俺達にも分からない。

それが分かったら、こんなに苦労しない。

でも、もし奴が捕まったとしたら、どうなるか。

それは分かる。

あいつは、天音の暮らしていた村を全滅させ。

おまけに、『禁忌の黒魔導書』の封印を解くという、重罪を重ねた。

そしてこれから、あいつの目的が何にせよ、それもまた犯罪に繋がるのだろう。

そう考えたら…あいつの未来は、明るくないな。

少なくとも、何事もなく無罪放免、って訳にはいかない。

ましてや、またイーニシュフェルト魔導学院に戻ってくるなんて、とんでもない。

それが分かっているだけに、ユイトにはこれ以上、何も言えなかった。

だから、ただひたすらに。

「大丈夫だよ。君は何も心配しなくて良い。先生達と聖魔騎士団に任せておけば大丈夫だから」

「ナジュは…。ナジュは死ぬんですか?聖魔騎士団に捕まったら…」

…それは分からないな。

今のところ彼は、情状酌量の余地は全くない、ただの殺人鬼だ。

裏切られてもなお、元学友が処刑されるのは、気分が悪いか。

当たり前だな。

しかし、シルナは。

「大丈夫。心配しないで。私が上手く取り計らうから。何も心配しなくて良いんだよ」

繰り返し繰り返し、そう言うばかりだった。

…今のところ、それ以上は言えないのだ。

『殺戮の堕天使』の…素性が分からない限りは。
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