神殺しのクロノスタシス2
「これで良いか?」

「はい…。ありがとうございます」

僕は、無闇さんに頼んで、ルーチェス・ナジュ・アンブローシアが、ルーデュニア聖王国に残した『痕跡』の全てを集めた。

まずは、イーニシュフェルト魔導学院に赴いたとき押収した、学生寮に残されていた私物。

それだけではない。

イレースさんに無理を言って、学院の保管庫から、あるものを探し出してもらった。

ナジュ・アンブローシアが、イーニシュフェルト魔導学院を受験したときの入試テストを。

その解答用紙にも、きちんと残留思念を残さないよう、対策されていた。

入念なことだ。

入試が行われた時点で、自分が入学出来ることを確信していたらしい。

だが。

保管庫から出してもらったのは、それだけではない。

入学時に提出した、入学時提出書類一式。

とにかく、入学するに当たって、彼が手を触れたであろう全てを、貸してもらった。

更に。

イーニシュフェルト魔導学院に入学するには、まずルーデュニア聖王国の国籍が必要だ。

無闇さんに頼んで、そこを確認してもらった。

国籍も偽造しているのか、それとも国籍は本人のものなのか。

結果、ルーチェス・ナジュ・アンブローシアは、ルーデュニア聖王国の国籍を持ってはいなかった。

彼は、偽物の戸籍で、ルーデュニアに滞在していたのだ。

本当は何処の国の人間なのか、それとも、ルーデュニア生まれだけど、戸籍を偽っていたのか。

無闇さんに確認してもらったところ、ナジュ・アンブローシアは天涯孤独だった。

受験したときの願書に書かれていた、出身校…つまり小学校…にも確認を取った。

彼が記入していた小学校は、実在する学校だった。

その小学校に確かめてみたところ、ルーチェス・ナジュ・アンブローシアなどという児童は、存在していなかった。

これではっきりした。

『殺戮の堕天使』ルーチェス・ナジュ・アンブローシアは、イーニシュフェルト魔導学院に潜入する為に、わざわざルーデュニア聖王国にやって来たのだ。
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