神殺しのクロノスタシス2
今思えば。
僕の人生は、あの日に始まったのだ。
それまでの人生なんて、ないも同然だった。
その日僕は、一人で公園にいた。
雨が降っていたのを覚えている。
頬が痛かったのも覚えている。
その前に何があったのかは覚えてないが、多分僕は、育ての親に殴られて、家を追い出されたのだろう。
そういうことは、それまでもよくあったから、何とも思わなかった。
一度追い出されたら、夜になるまでは帰れない。
雨が降ってようと、雪が降ってようと関係ない。
だから僕は、雨に打たれながら、公園のブランコに座っていた。
一人だった。
こんな雨の中に、公園に来る者なんていない。
…僕以外は。
きこ、きこ、とブランコに揺られていた僕は、俯いていた。
自分の足元に水溜まりが出来るのを、ただ眺めていた。
ふと、人の気配を感じた。
「…」
「…やぁ。何してるの?ここで」
美しい、太陽のような笑顔。
それが、僕と彼女の出会いだった。そこからのことは、よく覚えている。
何せ、その瞬間に、僕の人生が始まったのだから。
「…誰…?」
僕は驚かなかった。
怖くもなかった。
だって、恐怖なんて感情も、僕にはなかったのだから。
ただ、目の前の女性が、とても美しかったのを覚えている。
吸い込まれるような大きな目。艶やかで絹のような髪。
こんなに美しいものを見るのは、初めてだった。
それくらい、綺麗な人だった。
いや、人ではないのだけど。
その時点で、僕は彼女が何者なのか知らなかった。
「君、一人なの?」
彼女はしゃがみ込んで、僕に視線を合わせて尋ねた。
一人?
「僕は一人だよ。いつも」
たしか、僕はそう答えたのだ。
一人じゃないときなんてないくらいに、僕は一人だった。
そして。
「そっかぁ。実は、私も一人なの」
彼女は、にこにこしながらそう言った。
「でも、今は二人だね」
「…」
「一人と一人が一緒になって、二人になったね」
「…」
「ねぇ、君、名前何て言うの?」
名前。
僕の名前は。
「…ルーチェス・ナジュ・アンブローシア…」
妙に長ったらしい自分の名前を、僕は囁くように教えた。
「そうかそうか。長いね。じゃあ君のことは、ナジュ君と呼ぼう」
…呼ぶ?
名前を呼ぶ?
それはとても、不思議な感覚だった。
自分に名前はあっても、その名前で呼ばれることはなかったから。
いつも、「おい」とか「お前」とか、「穀潰し」とか言って、呼ばれていた。
名前で呼ばれるなんて、生まれて初めてだった。
「私、リリスっていうの」
「…リリス…」
「そう。宜しくね、ナジュ君」
そのとき、ぎゅっと握られた手の温もりを、僕は今でも覚えている。
あの瞬間から、僕の…僕達の人生が始まった。
僕の人生は、あの日に始まったのだ。
それまでの人生なんて、ないも同然だった。
その日僕は、一人で公園にいた。
雨が降っていたのを覚えている。
頬が痛かったのも覚えている。
その前に何があったのかは覚えてないが、多分僕は、育ての親に殴られて、家を追い出されたのだろう。
そういうことは、それまでもよくあったから、何とも思わなかった。
一度追い出されたら、夜になるまでは帰れない。
雨が降ってようと、雪が降ってようと関係ない。
だから僕は、雨に打たれながら、公園のブランコに座っていた。
一人だった。
こんな雨の中に、公園に来る者なんていない。
…僕以外は。
きこ、きこ、とブランコに揺られていた僕は、俯いていた。
自分の足元に水溜まりが出来るのを、ただ眺めていた。
ふと、人の気配を感じた。
「…」
「…やぁ。何してるの?ここで」
美しい、太陽のような笑顔。
それが、僕と彼女の出会いだった。そこからのことは、よく覚えている。
何せ、その瞬間に、僕の人生が始まったのだから。
「…誰…?」
僕は驚かなかった。
怖くもなかった。
だって、恐怖なんて感情も、僕にはなかったのだから。
ただ、目の前の女性が、とても美しかったのを覚えている。
吸い込まれるような大きな目。艶やかで絹のような髪。
こんなに美しいものを見るのは、初めてだった。
それくらい、綺麗な人だった。
いや、人ではないのだけど。
その時点で、僕は彼女が何者なのか知らなかった。
「君、一人なの?」
彼女はしゃがみ込んで、僕に視線を合わせて尋ねた。
一人?
「僕は一人だよ。いつも」
たしか、僕はそう答えたのだ。
一人じゃないときなんてないくらいに、僕は一人だった。
そして。
「そっかぁ。実は、私も一人なの」
彼女は、にこにこしながらそう言った。
「でも、今は二人だね」
「…」
「一人と一人が一緒になって、二人になったね」
「…」
「ねぇ、君、名前何て言うの?」
名前。
僕の名前は。
「…ルーチェス・ナジュ・アンブローシア…」
妙に長ったらしい自分の名前を、僕は囁くように教えた。
「そうかそうか。長いね。じゃあ君のことは、ナジュ君と呼ぼう」
…呼ぶ?
名前を呼ぶ?
それはとても、不思議な感覚だった。
自分に名前はあっても、その名前で呼ばれることはなかったから。
いつも、「おい」とか「お前」とか、「穀潰し」とか言って、呼ばれていた。
名前で呼ばれるなんて、生まれて初めてだった。
「私、リリスっていうの」
「…リリス…」
「そう。宜しくね、ナジュ君」
そのとき、ぎゅっと握られた手の温もりを、僕は今でも覚えている。
あの瞬間から、僕の…僕達の人生が始まった。