神殺しのクロノスタシス2
「しかも、敵の目の前で作戦会議とは。余裕ですか?」

「…」

俺達は、即座に戦闘態勢に入った。

彼が、どんな魔法を使うのかは分からないが。

向こうは一人。こちらは三人だ。

数に物を言わせて、例え強引でも、三人がかりで生け捕りにすれば…。

「しかし、よく見つけられましたね。もう少し時間がかかると思ってました。お宅の探索魔法の人…名前、何て言いましたっけ?」

「…エリュティアさんのことか」

「あぁ、そう。それです。その人、随分優秀なんですね」

その通り。

こうして、『殺戮の堕天使』の居場所を見つけてくれた。

「…先に勧告しておきます。投降してください。今投降してくれれば、危害は加えないと約束します」

俺は、先にそう言った。

彼にも、きっと、こうせざるを得ない理由があるのだろう。

ならば、投降して、素直に…。

しかし。

「吐月さん!」

クュルナさんが、僕の目の前に防御魔法を展開させた。

攻撃されたのだ。

『殺戮の堕天使』は、投降勧告を無視して、風魔法をぶつけてきた。

投降する気は、まるでないと。

分かった。

じゃあ、力ずくで捕らえさせてもらう。

「ベルフェゴール。力を…」

「…吐月」

「…?」

いつもなら、俺が呼び掛ければ、威勢の良い返事を返すはずのベルフェゴールが。

ついさっきまで、どんな敵でも倒すと豪語していたベルフェゴールが。

今、その敵を前にして、何故か、臆していた。

「…あれはやべぇぞ。あいつ、何を飼って…」

「あはは…。さすが、冥界最上位の魔物。分かりましたか?…僕には、絶対敵わないってこと」

「!」

俺は、ナジュ・アンブローシアの攻撃を避けた。

どうなってる。これは一体。

「ベルフェゴール!どういう…」

「えぇい畜生!やらなきゃやられるなら、いっそ全力だ!吐月!」

「…!分かった!」

本当はよく分かってないけど。

相棒が、全力を出せと言っている。

なら、全力で臨むまでのことだ。

俺は、持っていたナイフで、自分の手首を思いっきり切り裂いた。

溢れ出す血を、ベルフェゴールが吸い取った。

途端、俺の背中に、ベルフェゴールと同じ、コウモリのそれに似た黒い翼が生えた。

これが、俺達の全力だ。
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