神殺しのクロノスタシス2
悪いが。

俺とシルナの連携は、付け焼き刃ではないぞ。

一体何度、二人で困難を乗り越えてきたか。

『殺戮の堕天使』だろうが何だろうが、容赦はしない。

「…泣いて謝るなら、今のうちだぞ」

声を低くして、俺は降伏を勧めた。

お前も、痛い思いはしたくないだろう。

しかし。

「…ふふ」

ナジュ・アンブローシアは、笑っていた。

「…何がおかしい?」

「いえ…。よく喋るなぁと思って」

…?

「何を言ってる」

「一端の人間の振りしてるのが、滑稽で仕方ないんですよ。…空っぽの分際で」

「…!?」

空っぽ?

空っぽって、それはどういう…。

「あなたは偽者なんですよ。分かってるでしょう?自分でも」

「俺は、偽者なんかじゃ…」

「いいえ違います。あなたは偽者。もっと正しく言うなら…二十音・グラスフィアの付属品の一つ、ってところですね」

「…!」

…こいつ。

俺の中に、何がいるか知って、

「知ってますよ。あなたのオリジナルは二十音・グラスフィアなんです。でもオリジナルの人格は不安定だから、二十音はもっと安定した、新しい人格を作り出した。自分の代わりをね」

「…」

「だからあなたは偽者。中身も空っぽ。羽久・グラスフィアなんて人間は、最初からいないんです。残念でしたね」

「…」

…薄々、気づいてはいた。

俺は…羽久・グラスフィアという人格は、前の俺…二十音・グラスフィアから枝分かれした、分身みたいなものなんじゃないかと。

最初、生まれてきたときの人格は誰なのか。

この身体の、本当の持ち主は、俺じゃなくて…。

「…黙れ」

思考の波に呑まれそうになった、そのとき。

聞いたこともないくらい、殺気のこもった声で。

シルナが、ナジュの口を止めた。
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