神殺しのクロノスタシス2
「…初めて、本物のあなたにちゃんと会えましたね」

「…」

ナジュ・アンブローシアは、恍惚としてシルナを見つめた。

俺の方は、もう用なしと言わんばかりに。

実際、ナジュの目には、シルナしか映っていなかった。

「苦労したんですよ、僕。ずっとあなたに会いたかった。イーニシュフェルト魔導学院にいた頃から、ずっと。でも、直接は会えないでしょう?あなたの洞察力では、さすがの僕も正体を見破られかねなかったので」

「…」

「仕方がないから、あなたの分身を『観察』してましたけど…。あれも所詮はただの木偶。中身のない、空っぽの人形なんて見ても、何一つ得られるものはない」

「…」

シルナは、何も答えなかった。

答えずに、ただナジュの言いたいように言わせていた。

「だからこうして、初めてあなたという人間を『観察』出来て、とても嬉しい…。ずっと考えていたんです。世界を敵に回してまで、己の故郷と、死んでいった同胞達の無念を踏み潰してまで、たった一人の子供…しかも邪神を宿している者を愛し、それ以外を全部切り捨てたあなたが、どんな人なのか」

「…」

「何を考え、何を思って生徒や教え子達と接しているのか。どの面さげて、託された使命を踏みにじって、慕ってくれる教え子達を手駒にして、利用しようとしているのか」

「…」

シルナは、やはり何も答えない。

「ずっと知りたかった。あなたという人間のこと。そして今、ようやく本当のあなたを見ることが出来ました。で、その感想なんですけど…」

「…」

「…糞ですね、あなた」

ナジュは吐き捨てるようにそう言い。

しかし、シルナは全く動じていなかった。

「あなたは本当に…最低な人間だ。己の使命を忘れ、仲間達の遺志を踏みにじり、自分の愛する者を愛したいが為に、優しい顔して手駒を増やし、いざとなったら手駒達を生け贄に、自分達だけは助かろうとしている」

「…」

「どうやら、自覚はあるようですね」

「…そうだね」

否定することなく、シルナは頷いた。

「私は最低な人間だよ。君の言う通りにね」

「あぁ、勘違いしないでください。責めてるんじゃないんです。僕は安心したかっただけなんです」

…安心?

「僕も、あなたと同じなんですよ、学院長。僕もあなたと同じ、最低最悪の、人間のクズです…。仲良しですね」

「…君の目的は何だ?」

「僕の目的ですか?そういえば話したことなかったですね…。良いですよ、教えてあげます」

ナジュ・アンブローシアは、杖を構えた。

「…僕に勝てたら、ですけどね」

…この野郎。

あくまで、自分から話す気はないらしい。

だったら、相手してやらなければ。

「…シルナ」

「うん」

お互い、散々煽られて、心の方はダメージを負ってるが。

でも、悲しんだり、感傷に浸ってる暇はない。

今は、目の前の敵だけに集中しなくては。
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