神殺しのクロノスタシス2
だって、ほら。

「僕、あなたを置いていかなかった。あなたの望みを叶えてあげたってことですよね」

「え?いや、それはそうだけど」

あのまま死んでたら、僕はリリスをこの世に一人残して、自分だけあの世に行って、のほほんとしてたんだ。

そしてリリスは、僕を失った悲しみと、不死の身を呪いながら、辛い日々を過ごさなければならなかった。

僕は、それを阻止したのだ。

「あなたが背負うはずの苦しみを…僕が肩代わりしてたんですね」

「…そうだよ。だから、私が悪かっ…」

「あぁ、良かった」

「…何が良いの?」

何がって、そんなの決まってるじゃないか。

「好きな女の子の前では…格好つけたい生き物なんですよ、男っていうのは…」

「…ついさっきまで、寂しかったよーってぴーぴー泣いてた子が、何か言ってる」

あれは…まぁ、うん。

ノーカンってことで。

とにかく。

「…ずっと一緒にいたんですね、僕達」

「うん。…ずっと一緒にいたよ」

でも、孤独だった。

誰よりも孤独だった。

その孤独が今、ようやく満たされた。

これ以上の喜びが、他にあるだろうか。

このまま溶けてなくなれたら、どれほど幸せだろうか。

「…お願いがあるんだ、ナジュ君」

「何ですか?」

好きな人の願いなら、何でも叶え、

「生きて」

「嫌です」

「酷い!」

数ある選択肢の中で、一番嫌なのを選ばれたものだから、つい。「そこは頷くところでしょ?好きな女の子が頼んでるのに」

「女の子って…。あなた、僕とどれだけ歳が離れてると思って、いたたたた。何で精神世界で痛覚があるんですか」

思いっきり耳たぶ捻られた。

「あら~?ナジュ君ったら、今何か言ったかな~?」

こういうやり取りも、あまりに懐かしくて、泣きそうになるけれど。

でも、泣いてる場合じゃないんだよな。今は。

「…僕とあなたが今会えてるのは、シルナ学院長の魔法のお陰なんですよね」

「そうだよ」

それじゃ、つまり。

「魔法が解けたら、また僕達は離れ離れになるんですね」

「そうだね。また学院長が精神世界の入り口を開いてくれなければ…。また、会えなくなるね」

成程。

つまり僕は、一生あのシルナ・エインリーに、足向けて眠れないってことなんだな。

でも、方法がもう一つある。

「現実世界で僕が死ねば、ずっと一緒にいられる」

「…うん」

最初は、そうするつもりだった。

そうするしか、方法がないと思っていたから。

「僕は死にたい。死んで、ずっとあなたと一緒にいたい」

「分かってる。でも私は、君に生きて欲しい」

「…」

…どうして。

こう、僕を困らせることを言うかな。

女の子っていうのは、本当に。全く。あれだよ。

我が儘だよ。

僕が言えた義理じゃないか。

「どの面さげて生きていけば良いんですか?」

僕が生きてて、それで何か良いことがあるか?

僕の犯した罪のせいで、どれほどの人が傷ついたと思う?

そんな僕に、どうして生きる権利なんて与えられようか。

「その面さげて、生きていけば良いよ」

「誰も許してくれませんよ。僕のことを」

「だからだよ。私達にとって、死ぬことは贖罪じゃない」

…何?
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