神殺しのクロノスタシス2
言うまでもないことだが。

このルーチェス・ナジュ・アンブローシアという人間は、大罪人である。

数えられるだけで、いくつ罪を重ねた?

国立図書館の立ち入り禁止エリアに、勝手に侵入し。

『禁忌の黒魔導書』の封印を解いて、世界を混乱に巻き込み。

ようやくそれが収まったと思ったら。

天音の暮らしていた村、及び辺り一帯の村人を皆殺しにし。

国籍を偽造し、イーニシュフェルト魔導学院に侵入し。

生徒を人質に取って、爆弾で校内の一部を破壊し。

討伐に来た聖魔騎士団魔導部隊の吐月と、クュルナに怪我を負わせた。

ほら見ろ。

ルーデュニア聖王国広しと言えど、これほどの罪を重ねた大罪人は、そうそういないぞ。

まぁ、それでも俺やシルナよりは、マシなのかもしれないが。

「丁度良かった。暇だったんですよ僕」

その大罪人は、これから自分が裁きを受けることを知ってか知らずか。

何故か、物凄く呑気にそう言った。

それだけではない。

「しかし、良いですねここ。暮らしやすくて」

は?

「もっと手荒く扱われるのかと思ってたら、意外に優しくて。名前も呼び捨てじゃなくて、アンブローシアさん、って呼ばれちゃいました。めっちゃ新鮮な呼び方で、思わず本当に自分の名前なのか、一瞬考えちゃうんですよね」

「…」

「あっ、あと食事!食事美味しいですよここ。まぁ、僕魔導師だから、魔力もかなりあるし、食事する必要ないんですけど。『魔力多いんで、食べなくても大丈夫ですよ僕』って伝えても、『いやそれでも規則なんで』ってくれちゃって」

「…」

「それがまた美味しいんですよねぇ。巷では臭い飯とか言われてますけど、これが全然臭くない。しかも栄養バランスばっちりで。快適過ぎて、もう僕一生ここにいたいってくらいなんですけど」

…めちゃくちゃ、留置所ライフを満喫してらっしゃる。

「えぇー…。私のときは扱い手荒かったのになぁ…」

と、残念そうにぼやくシルナ。

あれは仕方ない。クュルナだったから。

つーか、お前適応能力高過ぎだろ。

「それで、僕に何の用ですか?」

「…」

「とうとう判決出ました?」

そう、判決。

彼への裁きが、とうとう下されたのだ。
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