神殺しのクロノスタシス2
まぁ、普通そんな反応になるわな。

一生檻の中を覚悟していた者が、いきなり学校に来てもらうよ、と言われたのだ。

俺だって、シルナがそんなことを言い始めたとき、耳を疑ったさ。

お前、正気か、と。

だが、シルナは本気だった。

俺とシルナは先程、王宮に行ってきた。

ルーチェス・ナジュ・アンブローシアの処遇をどうするか、話し合いに行ったのである。

この国家大罪人をどうするかは、女王も判断しかねていた。

そもそもナジュはルーデュニアの、って言うかこの時空出身ではない。

それに、彼には彼なりの、犯罪を犯した理由があった。

天音にしてみれば、ナジュの事情など知ったことか、と思うかもしれないが。

恐らくシルナは、自分とナジュの姿を重ねてしまったのだろう。

ただ愛する者の為。その為なら何でもする自分と。

ナジュも、何度も言っていた。

シルナと自分は似ている、と。

俺もそう思う。

それ故に、シルナはフユリ様に嘆願した。

「ナジュ・アンブローシアの身柄を、イーニシュフェルト魔導学院に引き渡して欲しい」と。

不老不死だから、ナジュが処刑されることはない。

彼に与えるべき罰と言ったら、死ぬまで監禁するか、死ぬまで働かせるか。

それとも人体実験用のモルモットにするか。

前例のないことだけに、どう判決を下して良いのか決めかねていた。

そこで、シルナの提案だ。

彼を学院で引き取り、自分が直々に監視する、と。

おまけに、新しいイーニシュフェルト魔導学院の教員にする、とまで言い始めた。

おいお前正気か、と。

二回くらい言ったが、シルナはあくまで正気だった。

自分が監視する、というのは建前だ。

ただシルナは、ナジュをこのまま腐らせておきたくなかったのだ。

ナジュは、自分を殺して欲しいと言ってきた。

シルナなら、出来たのかもしれない。

冥界の女王でさえ、殺せたのかもしれない。

でもシルナは、そうしなかった。

新たな人生の始まりだと、自分が言ったのだ。

だったら、ナジュの新たな人生は、自分のもとで歩んで欲しい。

少なくとも、ナジュの居場所は刑務所でも、解剖室でもない。

シルナのもと、イーニシュフェルト魔導学院のもとで生きるのだ。
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