神殺しのクロノスタシス2
彼を教師として学院で預かることは、イレースにも伝えた。

これでも禁書の封印を解き、学院の秩序を乱した人間が、教師になって戻ってくるなど。

イレースは異議を唱えるか、と思われたが。

彼女は、シルナの性格を知っていた。

やれやれという風に溜め息をついてから、

「じゃ、私の書類仕事が少し減りますね」と言っただけだった。

ちなみに、ナジュが担当する科目だが。

それを決めるときは、イレースと俺とシルナとナジュで、話し合うことになった。





「えっと…。ナジュ君、何の魔法が得意?」

「言うまでもないですが、読心魔法が一番得意です」

だろうな。

しかし読心魔法は、あまりにも特異過ぎる。

こればかりは、生まれたときから持っていた能力のようなものだ。

誰かに教えて、取得出来る類の魔法ではない。

シルナがアホみたいに毎日使ってる、分身魔法と同じだ。

それに…読心魔法の性質を考えても…生徒には教えない方が良い。

「じゃあ、次に得意なのは?」

「風魔法ですかね」

「あぁ、そういえば…」

生徒として実技授業に出たときも、突出した風魔法を見せてくれたっけ。

今思えば、あれでもめちゃくちゃ力をセーブしていたんだろうな。

「今、風魔法を教えているのは、私の分身だから…。そこに、ナジュ君に替わってもらうね」

「良いですけど。風魔法だけですか?一応これでも魔導師の端くれなので、他の魔法でも教えられますよ。あ、でも時魔法と空間魔法は勘弁してください」

あぁ。時魔法は勘弁してくれ。

時魔法までナジュに取られたら、俺の教える科目がなくなる。

「そうだな~…。じゃ、ナジュ君は実技担当の教師になってもらうっていうのはどう?」

…実技担当…?

「成程。魔導人形の代わりになれば良いんですね。分かりました。如何せん不死身なので、容赦なく打ち込んでもらって結構です」

おい。

お前はそれで良いのか。

「いや、魔導人形の代わりって…。そういう意味じゃなくてね…」

「え、違うんですか?」

シルナは、苦笑しながら答えた。

「高学年になると、実技授業増えるから。今は私の分身とイレースちゃんで対応してるけど、実技だけは、色んな教師に教えてもらう方が経験になるから」

「あぁ…成程」

シルナの分身は、あくまで杓子定規の実技授業しか出来ないが。

生身の人間から教わる魔法は、大変貴重だ。

「それに…。一年生には、ほとんど実技の授業はないから…」

シルナは、小さな声で言った。

…あぁ。そりゃそうだな。

「僕が一年生の…しかも、Aクラスの授業をすることを、憂慮していらっしゃるようですね」

当たり前だろ。

この間まで机を並べて、共に学んでいた仲が。

今日からいきなり、教える者と教えられる者に関係が変わってしまったのだ。

ナジュにとっては、彼らの前に立つのは、そりゃあバツが悪いだろう。

生徒にとっては…どうだろうか。

「別に良いですよ、僕。一年生の授業やりますよ」

ナジュは、あっさりとそう言った。
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