神殺しのクロノスタシス2
そのまま天音は、ナジュの上に馬乗りになって。
これでもかと言うほど、ナジュの顔をタコ殴りにした。
いくら不死身と言えど…。
「お前が…お前が、お前が!お前のせいで!」
天音は、泣き叫びながら、ナジュを殴り続けた。
気持ちが分かるだけに、天音を止めることは出来なかった。
ナジュもまた、抵抗しなかった。
許しも乞わなかった。
むしろ、自分はこうされるのが当然とばかりに、甘んじて殴られ続けていた。
「罪のない人が死んだ!皆…皆良い人達だったのに!お前より、お前なんかよりずっと…!」
「…」
「お前は裁きを受けたつもりでも、死んだ人は、死んだ人はもう帰ってこないんだ!」
殴り過ぎて、天音の拳に血が滲み始めた。
…天音。お前も分かっているのだろう。
今、どれほどナジュを殴ったとしても。
死んだ人は、もう帰ってこないんだと。
「うぅ…あぁ…」
天音は、血の滲む手で泣き腫らした目を、塞いだ。
今の天音の気持ちを考えると、こちらも辛くなってくる。
そして、天音にタコ殴りにされて、顔面ボッコボコにされて、それでも何も言わないナジュの気持ちも。
「…天音君」
シルナが、そっと天音の肩に手を置いた。
「許してあげて、とは言えない。それだけは誰にも言えない。だけど、ナジュ君は…」
「知ってます。分かってます…!僕も聞きました」
ナジュの身に何があったのかは、天音にも話してある。
同情もしただろう。
情状酌量の余地ありと思っただろう。
でもだからって、簡単に許せる問題じゃない。
それはそれ、これはこれだ。
だって、天音の言う通り。
死んだ人は、もう戻ってこないのだから。「良い人達だったのに…。皆良い人達だったのに…。あんな、家畜を捌くように…」
「…」
「僕は彼らを守りたかったのに。助けてあげたかっただけなのに…!どうして…!」
…本当、どうしてなんだろうな。
二人共、それぞれ各々の事情があった。
ただ今回は、それが互いに噛み合わなかっただけで…。
「…許さなくて、良いですよ」
ナジュは、腫らした唇から声を出した。
「許される、ことじゃ…」
「そんなの分かってる!」
天音が叫んだ。
「だけど、だけどあんなこと聞かされたら!あなたにそんな事情があって、僕と同じように、大事な人を守りたかっただけなんだって知って!許せないけど、許せないけど…!」
「…」
「…これ以上、あなたを責めることなんて、出来ないじゃないか…」
「…」
天音は、もうナジュを殴らなかった。
気が済んだ訳でも、許した訳でもない。
何で、こんなことになったんだろうな。
違う場所で出会っていたら、友人にでもなれただろうに。
「…生きて」
天音は、ぽつりとそう言った。
「生きて、罪を償うと約束してください」
「…約束します。必ず」
「死んだ人に、あなたに殺された人に恥じない生涯を、歩んでください」
「…難しいですね。でも、努力します」
…長い、贖罪の道のりになりそうだな。
何せ、不死身の身体だ。
そう簡単に、許しは得られない。
だから、ナジュ・アンブローシア。
お前は自分に与えられた無限の時間を、懸命に生きろ。
それが、お前の贖罪だ。