神殺しのクロノスタシス2
シルナに、半ば強引に連れていかれ。

俺とシルナは、イレースが授業を行っている教室の前までやって来た。

教室の扉の影に潜み、ちょびっとだけ扉を開けて、中を盗み見るシルナ(学院長)。

…完全に不審者なんだけど。

最早、犯罪を犯しているようにしか見えない。

それに、イレース相手じゃ…。

「…皆さんもご存知のように、ルーデュニア聖王国では、妄りに魔法を使うことは禁止されています」

教室の中から、イレースのよく通る声が聞こえてくる。

現在イレースは、『魔導倫理法』の授業を行っているようだ。

片手にテキスト、片手にチョークを持ち、黒板に板書するイレース。

うん。いつも通り凛々しい。

それに、あの黒板。

無駄なことは一切書いていない。要点だけを分かりやすくまとめ、特に重要なところにだけ、赤チョークで下線をつけてある。

これは分かりやすい。

さすがイレースである。

そして。

「ですから、皆さんはこのように…」

「ふぇ?」

イレースは、こめかみに血管を浮き立たせ。

ツカツカと、こちらに歩み寄り。

ガラッ、と扉を開けた。

「…」

「…」

イレース、シルナとご対面。

「…勝手に授業を覗き見するような、不埒者にはならないように」

そしてその手には、いつの間にか。

チョークの代わりに、雷迸る杖を持っていた。

あ、これヤバい奴。

俺は、そそくさと逃げた。

俺元々関係ないし。

「ちょ、ま、羽久。ちがっ、イレースちゃん違うんだよ!これは、これはね、派閥が。シルナ派の推進の為に」

「遺言はそれだけですか?」

「やだごめんなさいごめんなさい。助けて羽久ぇぇぇ!」

ちゅどーん、と背後から雷の迸る音が聞こえた。

シルナ…お前のことは、忘れないよ。
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