神殺しのクロノスタシス2
本当に、ナジュの言う通り。

『カタストロフィ』の六人が、ここにいる魔導師達に匹敵する実力を持っているのだとしたら。

たかが六人の組織、と放置しておく訳にはいかない。

大体、『禁忌の黒魔導書』の封印を解いたのは、ナジュ一人だけによる仕業ではない。

『カタストロフィ』の他のメンバー…。そのヴァルシーナとかいう女が指示したものだ。

粒揃いの魔導師達を集め、禁書の封印を解き…ナジュをスパイとして、イーニシュフェルト魔導学院に忍び込ませた。

相当のくせ者だろう。

「…そんな相手なら、放置…したくても出来ないな」

「むしろ放っておいたら、もっと面倒なことしそう」

本当にな。

次は何をするんだろう。学院爆破とか?

マジでやりかねないから、冗談でも考えたくない。

目的の為なら手段を厭わないのは、シルナと同じか…。

それだけに、厄介極まりない。

「…では、質問を変えますが」

シュニィが、そう前置きして。

「『カタストロフィ』は今、何処にいるんですか?」

居場所が分かれば、こっちのもんだ。

いくら、『カタストロフィ』が粒揃いの魔導師集団だとしても。

俺達だって、同じく粒揃いの魔導部隊なんだからな。

奇襲を仕掛けられるなら、勝算は充分ある。

数だって、こちらの方が上なのだ。

無理矢理にでも、抑えられる。

数に物を言わせてやれ。

卑怯とでも何とでも言え。神様云々だの、俺達の知ったことではない。

しかし。

「彼らの居場所は分かりません」

ナジュは、そう答えた。

「分からない…?」

「アジトとか、あったんじゃないの?」

「アジトならありましたよ」

「何処に?」

「空間魔法で作った、異空間に」

「…成程」

そりゃ、探しても見つからんな。

「空間魔法…?何でそんな面倒臭い魔法があるんですかね」

空間魔法のプロが、何か言ってるぞ。

自分の杖に聞いてみろ。

「空間魔法を使える魔導師が…。本当に、つわ者揃いの魔導師なんですね」

「えぇ」

空間魔法は、時魔法に負けないくらい高度な魔法だ。

それなのに、あっさりと空間魔法で異空間を作り、そこをアジトにしていたのか。

ルイーシュじゃないが、本当に面倒臭いな。

「その異空間は何処に?」

「もうなくなってます。僕が寝返った、あるいは聖魔騎士団の手に落ちた場合、すぐにアジトを放棄し、散々になると聞かされてますから」

「…そうですか」

今になって、その異空間とやらを探しても…巣穴は空っぽってことか。

「散々になったってことは、六人がバラバラになってるのか」

「僕が聞いた話では、そうなりますね」

「…」

六人がバラバラに散ってる…か。

更に面倒臭い。

一人ずつ探して、一人ずつ潰していかなきゃならない。

一同固まってくれてれば、一網打尽に出来たんだけどな。

「じゃあ、とりあえず一人でも捕まえて、脅して、他のメンバーが何処にいるのか聞けば?」

と、提案するキュレム。

良い案である。

尋問も拷問も必要ない。

こっちにはナジュがいるんだから、心を読むだけで分かる。

が。

「無理です。六人共、お互いの居場所を把握してませんから」

…あいつら、ナジュ対策完璧かよ。

こう言っちゃ悪いが。

「お前、全然信用されてなかったんだな。『カタストロフィ』に」

「そりゃあもう。お互い利用することしか考えてなかった仲ですからね」

あるいは、ナジュが寝返ることも計算に入れていたのかもしれないな。

だから、アジトを放棄した後、各メンバーが何処に逃げるのかも、知らせなかった。

「戦力の分散…ですか。私達にとっては不利ですね」

シュニィが、顎に手を当てて言った。

こちらの利点は、とにかく数が多いことだ。

いかに六人のメンバーが粒揃いだとしても、数に物を言わせれば、勝てる。

だが、六人がバラバラに逃げて、こちらが追う側になると、話が違ってくる。

一人ずつ捜索しなきゃならないとなると、どうしても、俺達も戦力を分散せざるを得ない。

今のところ、ナジュが寝返ったこと以外は、完全に向こうの策に嵌まってるという訳だ。
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