神殺しのクロノスタシス2
学院長室には、イレースもナジュもいない。
俺と、シルナだけ。
シルナは、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
今日は満月だ。
俺達を馬鹿にせんばかりの、美しい満月。
「…シルナ」
…こんなとき、俺が俺じゃなかったら。
俺が、前の俺…二十音であったなら。
この傷ついた男の心を、少しでも癒せただろうに。
残念ながら、そう都合良く入れ替わることは出来ない。
「何?」
「今、何考えてた?」
「何も考えてないよ。ただ、満月が綺麗だなーと思ってただけ」
…嘘つきめ。
今すぐナジュを呼んできて、嘘を暴いてやっても良いのだけど。
今回は、その必要はない。
だって、分かってるから。
シルナが何考えてるか。
当ててやろうか。
「…全部自分のせいだ、って思ってるだろ」
「…」
沈黙。無言。
それは、肯定の意味だと思って良いんだよな。
「昼間、会議してるときも、ほとんど黙ってた」
「…今日は、シュニィちゃんが仕切ってくれたからね」
「違う。お前が後ろめたかったから、黙ってただけだ」
「…」
いつもなら、ああいうときは率先して指揮を取る癖に。
シュニィに任せて、自分は喋らなかった。
後ろめたかったから。
自分が撒いた毒の種を、自分の教え子達が刈り取ろうとしているから。
その役目を、押し付けてしまっているから。
それが後ろめたくて、黙ってた。
「…他の誰にも、本音を言わなくても」
気持ちは分かる。
自分を頼りにしてくれてる教え子達がいるもんな。
いつも堂々と、毅然としていなきゃいけないもんな。
だけどさ。
「…俺の前では、せめて本当のことを言ってくれ」
「…羽久…」
「…空っぽの分際で、偉そうなこと言ってるけど」
「君は空っぽじゃない…。君は羽久だ」
そう、俺は羽久だ。
二十音じゃない。
だから、シルナを慰めてやれない。
大丈夫だよって、安心させてあげられない。
そんな自分が、酷く無力な気がしてならない。
「…自分のせいだって思ってたんだろ」
「…そうだね」
ほら。
言わんこっちゃない。
俺と、シルナだけ。
シルナは、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
今日は満月だ。
俺達を馬鹿にせんばかりの、美しい満月。
「…シルナ」
…こんなとき、俺が俺じゃなかったら。
俺が、前の俺…二十音であったなら。
この傷ついた男の心を、少しでも癒せただろうに。
残念ながら、そう都合良く入れ替わることは出来ない。
「何?」
「今、何考えてた?」
「何も考えてないよ。ただ、満月が綺麗だなーと思ってただけ」
…嘘つきめ。
今すぐナジュを呼んできて、嘘を暴いてやっても良いのだけど。
今回は、その必要はない。
だって、分かってるから。
シルナが何考えてるか。
当ててやろうか。
「…全部自分のせいだ、って思ってるだろ」
「…」
沈黙。無言。
それは、肯定の意味だと思って良いんだよな。
「昼間、会議してるときも、ほとんど黙ってた」
「…今日は、シュニィちゃんが仕切ってくれたからね」
「違う。お前が後ろめたかったから、黙ってただけだ」
「…」
いつもなら、ああいうときは率先して指揮を取る癖に。
シュニィに任せて、自分は喋らなかった。
後ろめたかったから。
自分が撒いた毒の種を、自分の教え子達が刈り取ろうとしているから。
その役目を、押し付けてしまっているから。
それが後ろめたくて、黙ってた。
「…他の誰にも、本音を言わなくても」
気持ちは分かる。
自分を頼りにしてくれてる教え子達がいるもんな。
いつも堂々と、毅然としていなきゃいけないもんな。
だけどさ。
「…俺の前では、せめて本当のことを言ってくれ」
「…羽久…」
「…空っぽの分際で、偉そうなこと言ってるけど」
「君は空っぽじゃない…。君は羽久だ」
そう、俺は羽久だ。
二十音じゃない。
だから、シルナを慰めてやれない。
大丈夫だよって、安心させてあげられない。
そんな自分が、酷く無力な気がしてならない。
「…自分のせいだって思ってたんだろ」
「…そうだね」
ほら。
言わんこっちゃない。