神殺しのクロノスタシス2
しかし。

生徒同士が喧嘩…ねぇ。

恥ずかしながら、イーニシュフェルト魔導学院でも、ない訳ではない。

まぁ、天下のイーニシュフェルトと言えど、通ってるのは思春期真っ盛りの少年少女達。

互いにぶつかり合うこともあるだろう。

俺も、何度か立ち会ったことがある。

イレースが学院に来てから、まだそんな場面に出くわしたことはないが。

これから、出くわすことがあるかもしれない。

「さぁ、目の前で生徒が喧嘩しています!あなたならどうする!?」

ちょっと考えたナジュは、

「…その喧嘩って言うのは、どの程度の規模の喧嘩ですか?」

「え?」

どの程度の規模?

「お互い杖を持って、校舎を破壊せんばかりに争ってるなら、止めるより先に逃げなきゃいけないでしょ?」

「いや…。あの…精々殴り合いくらいを想定して…」

「はい」

イーニシュフェルト魔導学院が創立して、もう長くなるが。

さすがに、校舎を巻き込んだ喧嘩は見たことがない。

これからもあって欲しくない。

喧嘩の域を越えてるだろ。

「イレースちゃんなら、どうする?」

「喧嘩両成敗です。問答無用で脳天に雷を落とします」

きっぱり。

さすが、元ラミッドフルスの鬼教官。

容赦がねぇ。

喧嘩両成敗か…。俺だったら、せめてどちらが発端で喧嘩が始まったのか、そこをちゃんと聞いてから成敗するな。

まぁ、イレースにとっては、どちらが発端であろうと、喧嘩にまで発展している時点で両者共に悪いと判断するのだろう。

間違ってはいない。

「じゃあ、ナジュ君ならどうする?」

「え?『良いぞ!もっとやれ!』って煽ります」

「大問題!」

教師として、それはアリなのか。

「煽っちゃ駄目でしょ!止めなきゃ!」

「止めるなんて可哀想に…。クラスメイトと殴り合いの喧嘩なんて、青春期じゃなきゃ出来ませんよ。折角の青春を止めるなんて、気の毒じゃないですか」

一理ある。

と、思ってしまう自分がいる。

言われてみればそうだな。

友達と殴り合いなんて、学生のうちしか出来ないからな。

「駄目!止めて!ちゃんと止めて!」

「えー…。殴り合いたいなら、殴り合わせれば良いのに…。自ら痛みを知らなきゃ、相手の痛みも分からないでしょうに…」

何故か、ナジュの持論が正しいように聞こえるのは、俺だけだろうか。

まぁ、シルナよりはマシだ。

シルナがどうやって生徒の喧嘩を止めるか、知ってるか?

俺、見たことあるんだよ。

先生、クラスメイトが喧嘩してます、って報告を受けるなり、現場に急行し。

顔を真っ赤にしながら掴み合っている生徒を見るなり、シルナがどうやって喧嘩を止めるのかと思ったら。

「えぇぇ~…!喧嘩しないでよ~…。やめて~」とか言いながら、大号泣ですがりついてたからな。

喧嘩してた二人も、いきなり学院長が泣き出したもんだから、ドン引きしてた。

お陰で二人共冷静になったらしく、喧嘩をやめた。

あれはあれで良い方法なのかもしれないが、学院長としての威厳は皆無だった。
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