神殺しのクロノスタシス2
「おおよその検討はつきました」

ナジュが学院にやって来てから、数週間後。

ようやく、エリュティアから朗報が告げられた。

『カタストロフィ』のメンバー各員の、おおよその居場所が分かったのである。

もう、一生エリュティアに頭が上がらない。

と、言うのも。

エリュティアの探索魔法は、ターゲットの残した『痕跡』を辿って居場所を突き止める。

今回『カタストロフィ』各員の捜索には、そりゃあ手がかかった。

まず、『カタストロフィ』が放棄したアジトの場所を探すことから始まった。

これがなかなか大変。

奴らのアジトは、あくまで空間魔法で作った異空間。

放棄された異空間の『痕跡』を探し出すのは、いかにエリュティアと言えど、時間がかかった。

例えるなら、空になったポテトチップスを捨てたゴミ袋の中を漁り、捨てられたポテチのカスから、食べた犯人を見つけるようなもの。

どれだけ大変か分かるか?

しかも、そのゴミ袋が、今回は異空間と言うではないか。

空間魔法のプロは、面倒臭がりながらも、今回ばかりは協力せざるを得なかった。

お陰で、ルイーシュの機嫌が超悪い。

「あいつら、あんなところにアジトなんか作って…。全員、前世モグラかドブネズミですよ。陰湿ったらありゃしない」

ほら見ろ。ルイーシュがめちゃくちゃ悪態ついてる。

そして。

「まぁ見つかったんだから良いじゃないか。たまには役に立てよ、お前折角空間魔法上手いんだからさ」

ルイーシュのご機嫌取りの為に、めちゃくちゃ頑張ってくれたのが、このキュレムである。

隙あらば休もう、逃げようとするルイーシュを、捕まえ、羽交い締めにして止め。

ちゃんと仕事をさせたのは、このキュレムの努力があってこそ。

皆頑張った。

特にエリュティア。

エリュティアは、残されたアジトの『痕跡』を辿り、『カタストロフィ』の連中が何処に散らばったか、おおよその検討をつけてくれた。

「頑張ってくれたね、エリュティア君。本当にありがとう」

シルナも、エリュティアの働きに感謝である。

しかし、エリュティアは。

「いえ…。それが、手放しに喜んで良いのかどうか…」

何故だか、浮かない顔であった。

「?どういうこと?」

「アジトに残されていた『痕跡』が、いかにもわざとらしいと言うか…。見つけてくれるのを待ってるような」

「…!」

「ナジュさんが言うように、アジトを放棄する事態に発展する可能性があったなら、もっと完全に『痕跡』を消すことは出来たはずです。それなのに、アジトにはわざとらしく、中途半端に『痕跡』が残されてました」

…成程。

エリュティアが残された『痕跡』を見つけ出し、自分達を捜索しに来ることも想定済みだったってことか。

つまり。

「探しに行った先で、向こうは準備万端整えて、うちらを迎え撃つ算段をつけて待ち構えてるってか?」

と、ジュリス。

わざとらしく『痕跡』を残していたというのが、何よりの証拠だな。

「彼らがどんな魔法を使い、どんな準備を整えているのかは、僕もほとんど分かりません。教えてもらえませんでしたから」

と、ナジュ。

お前、本当に仲間だと思われてなかったんだな。

「…仕方ない。罠だと分かっていても、こちらとしては、嵌まりに行くしかないのか」

「私も行って良いの?」

きょとんと首を傾げるベリクリーデ。

相変わらず、自分の立場をよく分かっていないようで。

「お前は王都から動いちゃ駄目なんだよ。奴らの目的はお前なんだから。俺も残るから、お前も大人しくしてろ」

「うん、分かったー」

ジュリスに諭され、素直に頷くベリクリーデ。

自分が狙われている自覚、ちゃんと持ってるか?

まぁジュリスがついてるから、大丈夫だとは思うが。

それに、俺も人のことは言ってられないのだ。

俺の中にだって、奴らの最終目的…邪神が潜んでいるんだからな。
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