神殺しのクロノスタシス2
…ふぅ。

「…ざまぁみやがれ」

シューターが、肉弾戦出来ないと思ったら、それは大きな間違いだ。

レイモンドは、俺の渾身のパンチに、白目を剥いて地面に大の字に倒れた。

なんか滑稽だから、こいつ、このままここに捨てておいてやろうか。

「ってか、生きてます?これ」

ルイーシュが、ちょんちょん、とレイモンドの髪の毛を引っ張った。

「生きてるだろ…多分」

内臓破裂したとしても、こいつは腐っても魔導師。

今頃体内では、フルスロットルで破裂した内臓の修復作業を行ってるだろうさ。

従って。

「こいつは捕虜に出来る。ルイーシュ、こいつを異空間に閉じ込めて、ルーデュニアに戻っ…」

ろう、とは言えなかった。

俺もルイーシュも、気がつかなかった。

気がついたときには、蘇生を始めていたレイモンドの身体が、陸に打ち上げられた魚のように、びくん、と動いていた。

そして、レイモンドの心臓部分。

そこには、魔法で作られた細いナイフが、深々と突き刺さっていた。

…誰が。こんな。

俺とルイーシュは、同時に上空を見上げた。

そこには、冷たい目をした女が空中に立っていた。

「…役立たずめ」

女は、そう吐き捨てた。

「お前…!『カタストロフィ』の仲間か!?」

女は何も答えなかった。

あいつも『カタストロフィ』の仲間なのだ。

そして、味方が敵に破れ、捕虜にされ、尋問を受けて情報を吐かされる前に…。

…自分の手で、自分の部下にとどめを刺した。

鬼の所業だ。

もしかして、こいつがナジュの言っていた、『カタストロフィ』のリーダー。

名前は確か…ヴァルシーナだったか。

「お前、ヴァルシーナか?自分の部下を自分で殺すのか」

食って掛かると、ヴァルシーナ(仮)は、冷ややかな目で、死んだレイモンドの亡骸を見下げた。

「この男は使えなかった。お前達を殺せなかった。任務に失敗した」

…だから、何だって言うんだよ。

「故に、もう用はない。余計なことを喋らされる前に殺した。それだけだ」

…お前。

自分の部下に向かって、よくもそんな…。

「何ならあなたも、今ここで、任務に失敗してみます?」

元祖煽りの王者、ルイーシュが、本領を発揮した。

俺達と一戦交えていかないのか、と聞いているのだ。

俺は疲れているから、気が進まないが。

ここで敵の頭を潰せるのなら、機会があるうちにやった方が良い。

しかし。

「私が戦うべき相手は、お前達ではない」

「あっ!こら待ちやがれ!」

俺の制止も聞かずに、ヴァルシーナは何処かに消えた。

…逃げやがった。あいつ。

部下にとどめを刺し、その亡骸を放置して。

「…あの野郎…」

ナジュが、あいつらの仲間にならなかったのは賢明だった。

俺だったら、絶対に、あいつの部下にはなりたくないね。
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