神殺しのクロノスタシス2
目の前の男が放つものが何なのか、すぐに分かった。

軽蔑と…そして、明確な殺意。

私は咄嗟に立ち上がり、アイナを後ろに隠した。

私の身に何があろうとも、アイナだけは守る。

絶対に。この命に代えても。

私の後ろで、怯え、戸惑っているアイナと。

そして、私の膨らんだ下腹部を見て、その男は鼻を鳴らした。

「アルデン人の分際で、繁殖活動か?良い気なものだな」

「…」

私は、片手でアイナを制し、もう片方の手に杖を握った。

「丁度良い。薄汚いアルデン人の混ざった血は、この世に必要ない。そこの小娘ごと…あの世に葬ってやろう」

…間違いない。

この男は。

「あなた…『カタストロフィ』ですね」

「いかにも。俺は『カタストロフィ』の一翼、パーシヴァル」

パーシヴァルと名乗った男は、遊ぶかのようにくるりと杖を回した。

「俺の役目は、聖魔騎士団に混じっている野蛮なアルデン人の駆除。つまり…お前達を殺すことだ」

パーシヴァルの殺気が、より一層強くなった。

「女子供は関係ない。ゴキブリの血を引く者は、小さかろうが何だろうが、全員ゴキブリだ。これ以上繁殖されちゃ、俺達の望む『あるべき世界』の邪魔になる」

「…『あるべき世界』ですか」

笑わせる。

私のことは、何とでも言えば良い。

どんな侮辱も耐えられる。

ゴキブリ扱いされても構わない。

だけど。

「何の罪もない幼い子供と、これから生まれようとしている子供を、母親ごと殺そうなどと…そんな残虐なことがまかり通る世界が、あなた方の言う『あるべき世界』ですか」

「…何?」

パーシヴァルは、私に言い返されたことに腹を立てたようで。

「ゴキブリの分際で…人の言葉を喋るな!」

「!」

パーシヴァルは杖を振るい、氷の刃を降らせた。

「嫌ぁぁぁ!」

私は、咄嗟に自分とアイナに防御魔法を展開して守ったが。

初めて見る、本物の殺気に怯えたアイナが、私の服にしがみついてきた。

その顔は、今にも泣き出しそうで。

「大丈夫ですよ、アイナ…。お母様が守ってあげますから。絶対に」

この命に代えてでも。

私は、私の子供達を守る。
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