神殺しのクロノスタシス2
震えるアイナを庇いながら、私の頭は何処までも冷静だった。

このパーシヴァルという男が、『カタストロフィ』のメンバーなら。

迂闊に、真正面から戦うべきではない。

私一人だけなら、戦うことも視野に入れなくもない。

だが、私にはアイナがいる。

アイナの命が、まず何よりも最優先だ。

故に。

私はこの男とは戦わない。

何としてもこの場を切り抜け、逃げることだけを考える。

最悪、アイナだけでも逃がすのだ。

しかし。

パーシヴァルが、杖を振るった。

すると、みるみるうちに部屋の中が凍り始めた。

「!?」

「どうだ?冷凍庫の出来上がりだ」

先程まで暖かいくらいの室温だったのに、あっという間に吐く息が白くなった。

かなり高度な、氷魔法の使い手と思って良い。

だが、それよりもっと不味いのは。

「逃げるつもりだったんだろう?小賢しいアルデン人の副団長さんよ」

「…」

私は、きつく唇を噛み締めた。

そう、逃げるつもりだった。

だからこそパーシヴァルは、部屋の中にある窓と、部屋の入り口の扉を…凍らせたのだ。

二つの脱出口を、氷で固めた。

勿論、ただの氷なのだから、炎魔法で溶かすことは出来る。

でも、その為には時間がかかる。

それにパーシヴァルは、ご丁寧にも、入り口の扉と窓の部分だけ、氷のオブジェでも作るかのように、分厚い氷で覆っていた。

あれを溶かすには、全力で魔力を注いでも、一分はかかる。

そして、一分もあれば。

パーシヴァルは、私のみならず、アイナを殺すにも充分な時間だ。

「おかあしゃま…」

今にも泣き出しそうな顔で、アイナが私を見上げた。

「大丈夫ですよ。何があっても…あなたのことは、お母様が守ってあげますからね」

私は、笑顔でアイナにそう伝えた。

その言葉に嘘はない。

何があっても、アイナだけは守る。

「はっ…。アルデン人の売女が、言うことだけは一人前だな」

「…何とでも言いなさい」

私は、アイナが離れないように、背中にアイナを隠し。

じりじりと、パーシヴァルから距離を取った。

「なら言わせてもらうさ。そのガキ、種は誰だ?どうせ旦那じゃねぇんだろ?」

「…何ですって?」

「それとも、誰の子か分からない、か?アルデン人の売女が、一人の男だけで満足するはずないもんな」

「…」

…私を、娼婦呼ばわりか。

好きなように言えば良い。

好きなだけ言えば良い。

その間に、時間を稼ぐ。

「きっとそのガキも、大きくなったら母親と同じように、誰にでも股開く売女になるんだろうよ」

アイナを侮辱され、私は怒りに震えた。

だが、焦ってはいけない。

感付かれてもいけないのだ。

「腹の子は?誰の子だ?え?どうせ言えないだろ。自分でも分からないんだから」

「…」

「穢らわしい女め。お前のような人種は、『あるべき世界』に必要ない」

…チャンスだ。

「あなたの言う…『あるべき世界』とは何です?」

「興味があるか?穢らわしいアルデン人」

「えぇ、あります」

話せ。言葉を続けろ。

一秒でも長く。
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