神殺しのクロノスタシス2
「私達アルデン人がいなくなれば、それは『あるべき世界』になるのですか」

「間違っちゃいないが、それだけじゃ足りないな」

「…何ですって?」

「まずはお前みたいな、シルナ・エインリーに洗脳された手駒達を、全員殺す」

「…!」

つまり、聖魔騎士団魔導部隊のことか。

「何故私達を…」

「お前達は神を穢した。聖なる神を封印し、邪神の味方をしている。シルナ・エインリーに洗脳されてな」

「私達は、洗脳などされていません」

「分かっちゃいねぇな。洗脳されてる奴は、気づいてないもんさ」

会話を絶やすな。

少しでも、長く時間を稼ぐのだ。

「シルナ・エインリー学院長は、もう充分に苦しみました。たった一人で、全ての苦悩を背負って…」

「だから何だ?イーニシュフェルトの聖賢者なる者、それくらい当然だろ」

「いいえ、関係ありません」

イーニシュフェルトの聖賢者。

それが、学院長先生の肩書き。

でも彼は、その呼び名のせいで、酷い苦痛と孤独を背負った。

私自身、学院長やアトラスさんに会うまでは、ずっと孤独だった。

だから、孤独がどれほど苦しいものか、よく知っている。

その孤独が満たされたときの喜びも、私はよく知っている。

勿論、私ごときの孤独など、世界を背負う学院長先生の孤独とは、比べ物にならないと分かっているけれど。

でも、その片鱗くらいは、私にも分かる。

「学院長先生も人間です。神を殺すだけの機械にはなれません」

だからこそ、学院長は羽久さんの手を取った。

例えそれが間違いなのだとしても。

決して許されない罪なのだとしても。

誰が、彼の味わった孤独と苦しみを理解出来ようか。

人が感情を持つ生き物である限り、幸せを求める欲求は、誰にも消せない。

この私でさえも。

「…下らん戯れ言だ」

「何とでも言いなさい」

…充分、時間は稼がせてもらった。
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