神殺しのクロノスタシス2
「えー…。まず、その人はマフィアでな」

「マフィン?」

「いや、マフィンじゃなくてマフィアな」

あの人がマフィアではなく、本当にマフィンだったら、あの国はもっと平和だったろうよ。

「いっつも真っ黒の服を着て、青い薔薇のブローチを胸につけてた」

「へぇ。面白い服だね」

これが、面白いで済めば良いんだがな。

しかしあのブローチ、あの人、何でつけてたんだろうな。

組織の名前から、あやかったのだろうか。

「その人とジュリスは、どんな関係だったの?」

「大した関係じゃねぇよ。商人と顧客だ」

「顧客?」

「あのとき俺は、地下組織でマフィア相手に、密輸した武器の斡旋をする仕事をしててな」

なかなかに儲かる仕事だったのを覚えている。

まぁ、非合法なんだけどな。

それだけに、マフィアとは仲良しだった。

特に、あの国で一番大きなマフィア…。かの死神が所属していたマフィアが、一番のお客様だった。

「あの人、いつも黒い服着てたから、死神だって呼ばれてたんだ」

「へぇ~。嫌じゃなかったのかな、その人。死神なんて呼ばれて」

まさか。

「むしろ自分の代名詞とばかりに、喜んで死神を名乗ってたよ。しかも、俺に頼んで、特注の真っ黒な鎌を造らされた」

「本当に死神だったんだね」

「全くだ。あの人ばかりは、敵に回したくなかったよ」

あの特注の鎌と、翻る黒いコート。胸に輝く青い薔薇のブローチ。

今でも、鮮明に甦る。

俺が幸運だったのは、一度でもあの人の機嫌を損ね、自分が売ったあの鎌で、首を切り落とされることがなかったことだ。

「なんだかシルナ学院長みたいだね」

「どっちかと言うと、羽久・グラスフィアの方が似てると思うけど」

「ふーん…。色んな人に会えて、ジュリスは幸せだね」

幸せ?

そうかぁ?そんなもんか。
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