神殺しのクロノスタシス2
…今のところ。

ここ一年で、一番面白いジョークを聞いた気分だ。

「ジュリス・レティーナ。あなたは知っているでしょう。かの邪神と、我らの神の戦争を」

「…あぁ」

「そして、その邪神を封印したのが、イーニシュフェルトの賢者であることも」

勿論知っている。

あのときのことは、俺も覚えている。

「ならば、分かるでしょう。今のシルナ・エインリーが、いかな暴挙を行っているか」

「…暴挙…ねぇ」

邪神を宿した羽久…いや、二十音だったか。

その二十音を手元に置き、守り、聖なる神を屠ろうとしている。

確かに、それだけ聞いたら、あの男はとうとう乱心したか、と思っていただろうな。

「ならばあなたは、こちら側に来るべきです。聖なる神を復活させ、邪神を討ち滅ぼし、世界をあるべき形に戻す為に…」

「…ジュリス、裏切っちゃうの?」

サディアスの言葉を遮って、ベリクリーデがきょとんと首を傾げた。

…。

うんと言ったら、この子はどうするんだろうな。

わー大変だね、くらいで済ませそうだな。

「そうだな。裏切るのも悪くないかもしれない」

「わー。大変だね」

本当にそれで済ませやがった。

「冗談だよ」

「え?」

「冗談だ。俺は『カタストロフィ』には入らない。シルナ・エインリーの味方だ」

「そうなの?」

頷くと、ベリクリーデは、

「良かったー」

の、一言で終わらせた。

相変わらず、この子といると調子崩れるな。

「…何故断る?」

サディアスは、冷たい声で尋ねた。

何故、何故と言われてもなぁ。

俺は、自分の心のままに従っているだけだ。

「あんたらこそ、何で『あるべき世界』にこだわる?」

「…!」

こいつらの考える『あるべき世界』。

分からなくはない。分からなくはないけれど。

「…もう良いじゃないか」

「何がです?」

「世界の全ての責任を、シルナ・エインリー一人に押し付けるな、って言ってるんだよ」

サディアスは、青天の霹靂みたいな顔をした。
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