神殺しのクロノスタシス2
「…一体、これは何事です?」

イレースは、俺に説明を求めてきた。

仕方ない。先輩教員として、イレースにも教えておかなければなるまいな。

シルナは毎年この時期、この日になると、こんな風になるのだ。

ところで、今日のイレースの格好。

いつもの、動きやすい仕事着ではない。

彼女は珍しく礼服を着て、髪を結い上げ、胸元には学院エンブレムを模した、青い薔薇のブローチをつけていた。

俺も、シルナも、他のシルナ分身の教員も、皆同じく礼服を着て、ブローチをつけている。

何故か。

季節は、春。

今日は、イーニシュフェルト魔導学院の、卒業式なのである。

六年間イーニシュフェルトに通っていた生徒が、今日、立派な魔導師として学舎を巣立っていく。

とてもめでたく、素晴らしい日なのだ。

そうだというのに。

このシルナ、今朝から、涙と鼻水をどばどば流すばかりで、威厳も糞もない。

その理由と言うのも。

「皆とわがれだくないよ~っ!もっとずっといっじょに勉強したい~っ!」

「…」

「卒業なんて嫌だ~っ!ずっとうちにいるんだぁぁぁ」

…お分かり頂けただろうか。

要するに、卒業していく生徒に会えなくなるのが寂しくて、卒業式参列を拒否しているのである。

見たことある?こんな学院長。

笑って送り出すのが教師の仕事だろうがよ。

生徒が泣くのは分かるが、何故お前が泣く。

醜いからやめろ。

「…馬鹿なこと言ってないで、早く行きますよ!生徒も保護者も来賓も、皆待ってるんですから!」

血管浮き立たせたイレースが、シルナの首根っこを鷲掴みにした。

「学院長の式辞だってあるでしょう!駄々捏ねてないで、さっさと講堂に行く!」

「嫌だぁぁぁ!皆ともっと一緒にいる~っ!」

「幼稚園児ですかあなたは!良い大人がみっともない!」

良いぞ。もっと言ってやれ。

あー今年はイレースがいてくれて良かったー。

毎年毎年、この気持ち悪い生き物を、無理矢理引き摺って講堂に連れていくのは、俺の仕事だったんだぞ。

イレースは、容赦なくシルナをずるずると引き摺り。

喚き散らすシルナを、無理矢理講堂に連行したのであった。

やれやれ。
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