神殺しのクロノスタシス2
「ぐっ…つぅ…」

僅かに掠めただけなのに。

傷口を見ると、何故かクナイを掠めた部分から、紫色にじわじわと変色を始めていた。

これは…。

「あははー。さっきまでの余裕は何処に行っちゃったのかな~?んー?」

「これは…何です…」

私は、喘ぐように聞いた。

明らかに、普通のクナイじゃない。

こうして話している僅かな時間だけで、左腕全体が紫色に変色していった。

「教えてあげよっか?それは毒。私の得意な、可愛い可愛い毒魔法だよ」

「…!」

毒魔法、だと?

それで納得した。あの掠めただけと思っていたクナイに、毒が塗られていたのだ。

気づいたときには、もう遅い。

痛みだけでなく、左腕全体が痺れて、まともに動かせない。

「くっ…」

それでも、敵の攻撃は避け続けなければ。

「あんたのお高く止まった顔が、どす黒くブクブクになっちゃうと思うと、面白くて堪んないねぇ!」

クィンシーは、容赦なくクナイを投げ続けてきた。

私はかろうじて避けたが、毒が回ってきたのか、左半身が痺れて、まともに走れない。

ついには足がもつれ、転倒してしまった。

そこに。

「ほら、これで終わりだよ!」

動けなくなった私の顔面目掛けて、クィンシーは愉悦の笑みを浮かべてクナイを投げた。

そのとき。

「イレースさん!」

私の前に天音さんが立ち塞がり、防御魔法でクナイを弾き飛ばした。

そして、そのまま私達をすっぽり隠すように、防御陣を張った。

これで、しばらくは時間が稼げる。

「天音さん…!」

「大丈夫ですか、イレースさん。腕を見せてください」

天音さんは、倒れた私の姿勢を変え、私の左腕をそっと手に取った。

「っ…!」

それだけで激しい痛みが走り、思わず奥歯を強く噛み締めた。

「あっ、ごめんなさい」

「大丈夫…です。それより、あなたは逃げてください。あの毒に当たったら、あなたまで…」

クィンシーの狙いは、完全に私に集中している。

天音さんがこっそり逃げたとしても、気に留めないだろう。

天音さんまであの毒に当たってしまったら…。

「…大丈夫です、イレースさん」

「…え?」

「むしろ、こんなときの為に…僕はいるんですから」

天音さんは、力強くそう言った。

そしてその手には、杖が握られていた。
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