神殺しのクロノスタシス2
「ねぇ何やってんのー?逃げる算段?さっきまでの威勢の良さは何処行ったの?つまんないから早く出てきなよ」

クィンシーは、くるくるとクナイを回しながら、にやにやとこちらを見下ろしていたが。

天音さんは、そんなヤジにも、少しも耳を貸さず、ただ真剣な目で私の左腕を見つめ。

そして、にっこりと笑った。

…何故笑う?

まさかとは思うが…。

「大丈夫です、心配しないでください」

そう言うなり、天音さんの杖が、私の左腕に触れた。

すると、その途端に。

紫色に変色していたはずの腕が、綺麗に元通りの肌色を取り戻していった。

これには、私も。

そして、クィンシーも。

「あ、天音さん…!あなた…」

「はぁぁ!?何やってんのあんた!」

驚いていないのは、天音さんだけだった。

左腕はもとに戻り、痺れも痛みも、嘘みたいに消えてなくなった。

「さぁ、これで大丈夫ですよ、イレースさん」

「あ、天音さん…」

「忘れました?僕、回復魔法専門なんですよ」

いや、それは忘れていないけれど…。

まさか、こんな一瞬で…。

「この程度の毒、僕にとっては擦り傷を治すのと同じだよ」

天音さんは、挑戦的な目でクィンシーに言った。

ご自慢の毒魔法を馬鹿にされ、網にかかろうとしていた魚に…つまり私のことだが…逃げられ、クィンシーは怒りを募らせていった。

「お、お前らぁ…!私を馬鹿にしやがって…!」

クィンシーは、狂ったようにクナイを投げ始めた。

だが、天音さんの防御陣に阻まれ、こちらには届かない。

怒りたければ、勝手に怒っていなさい。

「ありがとうございます、天音さん」

「とんでもない。僕に出来ることなら、何でも言ってください」

…よし。

ならば。

「この防御陣も長くは持ちません。天音さん、あなたに頼みがあります」

あれだけ怒濤のごとく攻撃を受けたら、いかに防御陣堅くても、いずれは破られる。

だから、作戦会議をするなら今しかない。

「何をすれば良いですか?」

「私の言う通りに動いてください」

「分かりました」

本当は、一人でやるつもりだったのだけど。

折角、こんなに心強い仲間がいるのだから。

…防御陣が、もうすぐ壊れる。

「行きますよ、天音さん」

「はい!」

パリンと音を立てて、防御陣が崩れた。

その瞬間、私達は左右に散開した。
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