神殺しのクロノスタシス2
ここは私の居場所。

ここが私の居場所。

イーニシュフェルトの里。生まれ故郷。ふるさと。

愛しい里の仲間達。家族達。友人達に囲まれて。

魔導の勉強をしながら、魔法の腕を磨き。

穏やかに、変わらぬ結束で生きていく。

平和で、穏やかで、ゆったりと過ぎていく平穏な日々。

それなのに、私の傍には何かが足りない。

心の中に、ぽっかりと穴が空いている。

どんな平穏で安心した暮らしでも、埋めることの出来ない心の穴。

この穴を埋める決定的な何かが、私には不足しているのだ。

そして、ある日。

そんな、終始上の空で過ごしている私を、族長が呼び出した。



「…何故呼ばれたか、自分でも分かっておるな」

「…はい」

族長と、二人きりの場で。

私は族長の足元に伏して、小さく頷いた。

「最近お主は、鍛錬に身が入っておらん。次期族長として、如何なものか」

「…私の、不徳の致すところです」

「そうであろうな」

自分が上の空で過ごしていることなんて、自分が一番よく分かっている。

分からないのは、その原因だ。

私はここにいるべき存在なのに。

私はここにいてはいけない存在のような気がする。

「何ぞ気にかかることがあるなら、ゆうてみよ」

「…」

族長が、これほどまでに気をかけてくれている。

滅多にないことだ。

それだけ私に、次期族長として期待をかけてくれているのだろう。

嬉しいことのはずなのに。

どうしてこんなに…後ろめたい気持ちになるのだろう。

あまりにも後ろめたくて、死にたくなってくる。

「…では、族長殿。一つ、質問をしても宜しいでしょうか?」

族長は、小さく頷いた。

私は、あのことを聞いてみることにした。

私の心に引っ掛かっている言葉。

「…神殺しの魔法…。神殺しの魔法を、使うことはあるのでしょうか」

私が、そう尋ねると。

族長は、思ってもみなかったという顔をした。

「神殺しの魔法…じゃと?」

「はい。必要ではありませんか?」

「…」

族長は俯いて眉間を抑え。

やれやれとでも言うように、頭を振った。

「次期族長ともあろう者が、そんな与太話に惑わされるとは。なんと情けないことよ」

「…与太話…?」

何故、これが与太話?

大事なことじゃないか。

だって神殺しの魔法を使って、私は、

…あれ?

神殺しの魔法を使って、私は…何を…。

本当に…使ったのか?

「痴れ者めが。あんなものは、ただの伝説じゃ。大昔の文献でしか記されていない」

「で、ですが、実際に使った者が…」

「あんなもの、伝説どころか、童話と変わりない。魔導師が、神々を討ち滅ぼしたなどと…。馬鹿馬鹿しい。この世界の何処に、神などという存在がいるものか」

「…!!」

…神が、いない?

この世界には、神がいない?

じゃあ、神殺しの魔法は?

ただの伝説で、子供が好んで聞くような童話に過ぎなくて?

神殺しの魔法なんて、誰も使わないと言うのか。

「何処で吹き込まれたのか知らんが、下らん空想に浸っている暇があれば、鍛錬に集中せよ」

「…」

「全く、神殺しの魔法など…。そのようなほら話に踊らされおって、情けない」

「…」

「この世界に神などおらぬ。世界にあるのは、人と動物だけよ。従って、イーニシュフェルトの里の賢者は、人類の代表として君臨せねばならぬ。そのことを肝に銘じておくのだ」

「…はい」

「お前には、このイーニシュフェルトの里を守っていく、その義務がある。分かったな」

「…はい」

…そう。そうなのだ。

それで、良いじゃないか。そう。

この世界に、神なんていない。
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