神殺しのクロノスタシス2
私は頭の中で、幼馴染みや、族長に言われたことを反芻していた。

神なんていない。

神殺しの魔法なんてない。

ここが私の生まれ故郷。

ここが私の居場所。

皆に才能を認められ、次期族長に指名され、誰もが穏やかで、平穏な日々。

なんと温かく、順風満帆で、幸せなことだろう。

私は、間違っていたのだろうか。

心に穴が空いたなんて、私が勝手にそう思っていただけで。

本当は、全部私の勘違い、思い過ごしで。

私はここで、この生まれ故郷で、家族のような仲間達に囲まれて。

満たされて、何の心配もなく、幸せに生きてて良いんじゃないか。

私は、美しい故郷の風景を、じっと眺めた。

なんて心休まる場所だろう。

誰もが私を受け入れてくれる。優秀だと褒めて、認めてくれる。

ならば私は、これ以上、何を望むと言うのだろう?

「私は…ここにいて良いんだ…」

ここで幸せに、平穏に、暮らしていけば良いのだ。

何も思い煩うことなんてない。

私は、穏やかな里の中を見渡し、歩きながら、そう思った。

心から安堵した、そのとき。

「あっ」

「…っ」

私は、誰かとぶつかってしまった。

ぼんやり眺めてたものだから、足元を見てなかった。

私がぶつかったのは、幼い、まだ幼児期の男の子だった。

男の子の後ろから、母親が慌てて駆けてきた。

「まぁ、シルナさんごめんなさい。この子ったら、勝手に走ったりして…」

「あ、いえ…」

そういえば、幼馴染みが言ってたな。

◯◯さん家の子、もう歩けるようになったって。

そうか、走れるようにもなったか。

きっと好奇心旺盛で、自分の足で歩けるようになったから、自分の周りをあちこち見て回りたかったのだろう。

「ごめんね、大丈夫?」

「うぅ…ふぇ…」

もぞもぞと起き上がり、男の子が顔を上げた。

その目に、涙が光っていた。







あっ、という声が、出そうになった。





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