神殺しのクロノスタシス2

暗くて、じめじめとした座敷牢には、光が差さなかった。

ここに閉じ込められてから、どれだけの時間がたったのか、もう分からない。

それでも最初の頃は、月に一度だけ、母親がちらりとだけ、様子を見に来た。

話しかけてくれる訳ではない。

ただ、生きてるのか死んでるのかを確認しただけで。

その頻度も、最初は月に一度だけだったのに。

三ヶ月に一度になり、半年に一度になり、年に一度になり。

今はもう、何年になるのか分からない。

この部屋には、時間の概念がなかった。

最早この場所が、私の全世界だった。

外の世界なんてものが、本当にあったんだろうか。

もう、思い出せないけど。

あまりに長く、ここに閉じ込められていたせいで。

もう、生まれたときからここにいたような気がする。

外の世界。

あれは夢だったんだろうか。

ずっと焦がれていた外の世界。

誰かと繋がって、誰かと話せて、誰かに触れてもらえる世界。

もう、ずっと昔の話のように思える。

私は、何故ここにいるのだろう。

何で、他の人みたいに外の世界にいられないんだろう。

何で、私だけこんな暗くて冷たい場所にいなきゃならないんだろう。

まるで囚人のように。

私は、閉じ込められるような悪いことをしたんだろうか。

それとも、私は生きてることそのものが罪なのだろうか。

母親は、私を鬼と呼んだ。

人ではなく、鬼だと。

だから、きっとそれが私の罪なのだろう。

もう一生、外に出ることは叶わないのだろう。

「…」

誰かの温もりが欲しい。

誰かに手を繋いで欲しい。

でもここには、何もない。

誰も助けてはくれない。

私は、右の手で、左の手を繋いだ。

自分で自分の手を繋ぐ。

少しでも、心の休まるものが欲しくて。

でも、私の両手は氷のように冷たかった。

胸の中にある、この気持ちの名前を知らなかった。

これは、一体何なんだろう。

ずっと何かを求めている。

この気持ちの名前を知りたい。

座敷牢の中は寒くて冷たくて、暗くて汚れていて。

その中にいる私も、ゴミみたいに汚くなって。

それでも私は生きている。

きっと誰にも、生きていることを望まれてないのに。

誰かが、この座敷牢から出してくれることを夢見ている。

そんな日が、来るはずないのに。

だって私は鬼。

忌み子。

皆私をそう呼んだ。皆私に痛いことをして、殺そうとした。

私は誰からも嫌われている。

それなのに、私は探している。

求めている。

この胸の中にある、名前の分からない感情を埋めてくれるものを求めている。

地下に続く扉が開かないかと、ずっと見つめている。

この南京錠を開けてくれる人が来ないかと。

そうすれば、そうしたら。

私は救われる。そんな気がするのだ。
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